2024年公開の、三谷幸喜監督脚本作『スオミの話をしよう』は、タイトル通り、スオミという女性について5人の男たちが語り合う会話劇をメインに進むミステリーコメディだ。
三谷幸喜らしい、舞台演出から影響を受けた映像や、軽妙な笑いを含む脚本もいいのだが、それさえ霞んでしまうほどに、スオミを演じた長澤まさみの魅力が溢れて止まらない。
ミステリーとしては微妙だったが、長澤まさみという女優を後世に語り継ぐには大貢献したと言える。
本作の感想や考察を掘り下げてレビューしていくので、見た方はおさらいに、気になっている方は参考にぜひ!
本記事は感想にネタバレを含みます。まだ未視聴の方はご注意ください◎
映画『スオミの話をしよう』の評価

総合評価 2.9 / 5 点
評価コメント:長澤まさみの美しさを後世に語り継ぐための作品
映画『スオミの話をしよう』は、5人の歴代夫と失踪したスオミをめぐるミステリーコメディ。夫たちスオミ像は食い違い、語れば語るほどスオミの正体は一体…?と謎が深まっていく。
スオミ誘拐犯は丸わかりでミステリーとしてはつまらないが、軽妙な会話の応酬と、時折挟まれる笑いどころは三谷幸喜らしさ抜群。
スオミの真意が明かされるにつれ、夫たちの幸せだった結構生活と、“理想の妻”を演じ続けてきたスオミの孤独が対照的に浮かび上がるプロットはさすが。
だが全体的に男性視点が濃く、スオミをトロフィーワイフとして誇らしげに掲げる元夫への嫌悪感や、スオミというキャラクターにリアリティが欠けるなど、賞賛できない点も多々ある。
豊かな表現で複雑なキャラクターを演じた長澤まさみの圧巻の美しさは、本作最大の魅力であり、長澤まさみの魅力を後世に残すことに貢献している。
- 『コンフィデンスマンJP』を見た人
- 西島秀俊と遠藤憲一のX・Instagramをフォローしている人
- 長澤まさみを可愛いと思ったことがない人
- 三谷幸喜が手がける舞台を見に行ったことがある人
映画『スオミの話をしよう』が視聴できる配信サービス
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映画『スオミの話をしよう』ネタバレなしあらすじ
刑事・草野は、とある捜査のため詩人・寒川しずおの豪邸を訪れる。寒川の妻スオミが失踪し、その行方を探してほしいのだという。スオミは草野の元妻でもあり、妻の失踪を大事にしたくない寒川は内々に草野に捜索を依頼してきたのだった。
スオミは失踪ではなく誘拐されたことが判明し、スオミの元夫である魚山、宇賀神、十勝も集まり、5人の男たちはスオミについて語り出す。
彼らが語るスオミは、それぞれ性格や能力がまるで違っていた。5人は「一体どれが本当のスオミなのか?」と当惑するが、我こそがスオミの最大の理解者だと信じて譲らない。
犯人から身代金三億円を要求された5人は、協力して金をかき集め、スオミを助け出そうとするがーー。
そしてラスト、5人の前に現れたスオミは、自分の正体について語り始める。
映画『スオミの話をしよう』ネタバレあり感想
結局スオミは自由になれなかった
ラストのほんの十数秒がすべてを台無しにした。
ころころと人格を変えて5人の男を瞬く間に夢中にさせ、次から次へと夫を変えるスオミ。ここだけ抜き出すと、「魔性」や「奔放」な女を思わせるが、実際はその逆。スオミは誰よりも窮屈で不自由な人生を生きている。
スオミは幼い頃の家庭事情から、自分は「相手が望んだ人間になることでしか愛されない」と思っている。
主張や言語だって捨てて相手の理想の妻を完璧に演じ、本来の自分を封じ込める日々。そんな生き方に疲れ果てたスオミが起こしたのが、今回の狂言誘拐だ。
自分の名前(スオミはフィンランド語で”フィンランド”の意味)でもある、フィンランドで暮らすための三億円は手にしそびれたが、元夫たちに、すべてを打ち明けたスオミの顔は晴れやかだった。
過去を清算したスオミはもう、誰の理想に合わせるでもなく、元来のスオミとしての人生を堂々と歩いていくだろうと思った。
それなのに、ラストでスオミは、椎名林檎風の和装美人として草野の部下・小磯に接近しているではないか!
「金は自分で稼ぐ」と言い、”ありのままの自分”で生きることを選択したスオミが、これまでの生き方から解放されていないことに愕然とした。結局スオミは窮屈で不自由なままじゃないか。
まるで、真っ当に生きると風俗嬢から足を洗った女の子が、しばらくして別の店で名前を変えて働いているのを知ってしまったようなやるせなさ。
三谷幸喜的には小粋なエピローグのつもりだったのかもしれないが、人の根本はそう簡単に変わらないとでも言われているようで、後味の悪いワンシーンだった。
「美しい若妻に振り回されるおじさん」に滲む男性讃歌
個性の違う5人の男たちがスオミについて、マウントを取り合いながら語る様は、滑稽で可笑しい。
見事な脚本と俳優たちの演技力が相まって、軽妙に笑いを取りつつも、彼らがスオミを心から愛し、彼らなりの真心を注いでいたことがわかる。
だが、それぞれの短い結婚生活で満ち足りていたのは夫側だけである。彼らはスオミの苦悩に気付きもしなかった。ナルシスト、無関心、神経質で無能と決めつける夫など、いずれもダメ夫気質。それなのに、離婚の原因は100%スオミにあるように描かれている。
そして、夫たちの年齢比率が圧倒的に中高年に偏っていることも気になる。松坂桃李以外、全員がおじさんだ。これには、スオミが経済力を条件に相手を選んでいることと、遠い記憶の父親への憧れも投影されているだろう。
と同時に、本作が「若くて美しい妻を持つことが男の人生における成功の一つである」という理念を前提にしていることが透けて見える。
おじさんが若いイケメンたちを差し置いて、美人若妻に何不自由ない暮らしをさせていることは誇らしく、若妻の無茶に振り回されつつも、丸ごと肯定して愛で包み込む男ってかっこいいだろう?と言っているように思えてならない。
本作は、自分らしく生きることをよしとする人間讃歌に見せかけた、男性讃歌の物語だ。
スオミが彼らとの結婚生活を捨てたのは「相手に合わせることに疲れたから」一辺倒な点を考えると、スオミは女性の視点を介さず生まれたキャラクターなのだろうと思う。
理由は本当にスオミの心変わりだけなのだろうか。自分好みの妻を手中にしたことに浮かれ、スオミの内面を見ようとしなかった夫にも非はないか。
そもそも、スオミほどの観察眼と対応力を持つ人が、愛を欲しているからとはいえ他者(それも難ありな男たち)の理想に合わせて生きる理由に納得のいく説明がない。
年上の夫に養われて生きるのが若い女にとって幸せだなんて、中年男性にとって都合のいい解釈だ。
長澤まさみのスオミはどの瞬間も美しくて素敵だったが、スオミを破天荒で謎めいた女に見せたいのか、アイデンティティの喪失に悩む普通の女に見せたいのかどっちつかずで、驚嘆も共感もできなかった。
スオミは、男の憧れが生み出した幻だ。だからこそ、誰のものにもならずに輝き続けるのかもしれない。
コメディエンヌ長澤まさみの圧倒的美しさ
長澤まさみがNo.1コメディ女優と認識されるようになったのはいつからか。
シリアスからぶっ飛んだキャラクター、伝説のマドンナまで幅広く演じられる女優として引っ張りだこだったが、長澤まさみをコメディエンヌとして定着させたのはやはり『コンフィデンスマンJP』のダー子だろう。
最初から長澤まさみをイメージして本作を書き上げた三谷幸喜が、制作挨拶で「長澤まさみのすべてが、このなかにある」と語ったように、長澤まさみが本作最大の魅力になっている。
白T+ジーンズで露わになる日本人離れした手足の長さ、変幻自在な表現や、伸びやかな歌声。頭の中で想像できうる「長澤まさみ魅力値」をいつも軽く飛び越え、この人の輝きは無限なのかと驚いてしまう。太陽のような人とは、彼女のような人のことを言うのだろう。
舞台出身の三谷幸喜が好む1シーン長回しの緊張感の中で、実力俳優が演じた個性豊かな5人の夫たちを、完璧にさばききって見せた。
男を蹴散らし、ダハハハと豪快に笑う、圧倒的パワーと美しさを秘めた長澤まさみを、もっともっと後世に残してほしい。これは日本の映画界の使命でもある。
人に合わせてばかりで自分らしく生きられないスオミを唯一完璧に理解してくれる、宮澤エマ演じる薊とのシスターフッドが抜群によかった。「次はどの男を…」と計画を練る彼女たちは、学生時代に帰って、際限なく楽しいおしゃべりを繰り広げているのだろう。
映画『スオミの話をしよう』考察・解説
【考察】スオミがフィンランドに行きたい理由と目的
スオミは狂言誘拐で身代金三億円を寒川に要求した。三億円を手にしたら、薊と一緒にフィンランドで暮らすつもりだったという。
なぜスオミはフィンランドに行きたかったのかというと、スオミにとってフィンランドに行くことは、「本当の自分になる」ことを意味するからである。
スオミ=フィンランド語で”フィンランド”で、スオミはフィンランドが大好きだった父親の写真をペンダントに入れて、首から下げている。スオミは人に合わせて姿や性格を変えても、ペンダントはいつもお守りのように身につけていた。
スオミにとって、自身のルーツである父親が愛したフィンランドは、父親の痕跡を通して、本来の自分と出会う場所だ。
身代金三億円は、フィンランドに渡ったスオミと薊が、経済的に他者に頼らず暮らし、やがて老人ホームに入るまでの想定必要金額とすれば妥当かもしれない。
【考察】スオミはケチな寒川が身代金を払うと思っていたのか?
スオミの現夫、詩人・寒川しずおは富豪で、自分で使ったり対外的に使う金は糸目はつけないが、スオミには自由に使える金を与えないというケチな男である。スオミは、元夫でYouTuber兼実業家の十勝からお小遣いをもらっていたほどだ。
そこで疑問なのが、相手の考えを読み、相手が望む行動を的確にできるほど観察眼の鋭いスオミが、「寒川が自分のために身代金を払ってくれる」と本当に思っていたのだろうか?
結論から言うと、スオミは「寒川が身代金を払ってくれると思っていた」だろう。
しかし、寒川はそうしなかった。土壇場で金を渋り、空のスーツケースをセスナから投げ落とした。
寒川には、その時点において他の4人と決定的に違う点があった。それは、「スオミと離婚したことがない」ことだ。
スオミの夫たちは、別れた今もスオミを心から愛し、困っていたらなんでも協力してくれる男たちだった。それは間違いなく、スオミが相手の望む妻として献身した結果であり、スオミの狙い通りだ。
スオミは、今度の夫・寒川も今までの夫たちと同じように、いざとなったらスオミを救うために金だろうとなんだろうと投げ出してくれると信じていたはずだ。
スオミを別れたことがない寒川は、身代金受け渡しの時点では、まだスオミを失うことがどれだけ辛いか気づいていない。だからスオミより金を優先することができた。
別れの苦しみを知り、スオミを何よりも大切に思う4人の元夫たちなら、なんのためらいもなく金を放り投げただろう。
【考察】レビュー低評価の理由、三谷幸喜はもう落ち目?
本作はこれまでの三谷幸喜監督・脚本作に比べると低評価のレビューが目立つ。
その理由を考察してみると、「小規模」というキーワードが浮かび上がってくる。
- 登場人物が少なく、話題が「スオミ」に限られるので群像劇としては小規模
- 寒川邸での会話がメインで場面転換がほぼなく、舞台色が強い
- スオミの行動の理由や目的への共感が弱い
- わかりやすくハッピーエンドではなく、ラストの盛り上がりに欠ける
三谷幸喜作品の魅力は言うまでもなく、「会話」にある。
『THE 有頂天ホテル』や『ステキな金縛り』のように、たくさんの登場人物が広い空間を歩き回りながら、それぞれのコンテキストで好き勝手に語り、事件が事件を呼び、ラストにはすべてが集約されてバチッ!とはまるカタルシスに、多くの人が魅了されてきた。
しかし、本作は登場人物が過去作に比べると少なく、会話の内容も「スオミ」のことに限られる。
展開も最初から想像がついていたこともあり、「結末にしっくりこない」、「感動が弱かった」と感じる人が多かったと思われる。
本作の低評価に「三谷幸喜のピークは過ぎた」との声もある。しかし、舞台寄りの演出・脚本で挑んだ三谷の見通しと、過去作好きの観客の期待がマッチしなかったのが実際のところだろう。
三谷幸喜作品が唯一無二のコメディなのは変わりなく、次回作は誰もが認める傑作かもしれない。
落ち目だと決めつけるには、あまりにも早い。
映画『スオミの話をしよう』主な登場人物・キャスト
スオミ(長澤まさみ)
– 寒川の妻で、突然失踪した。寒川の前に4人の男性と結婚していたが、元夫の語るスオミ像が一致せず、謎に包まれている。
草野圭吾(西島秀俊)
– スオミの4番目の夫で刑事。寒川からスオミの捜索を頼まれ、誘拐の線で捜査に乗り出す。
小磯杜夫(瀬戸康史)
– 草野の部下。草野とともに、元夫たちからスオミの話を聞き出す。寒川のファン。
寒川しずお(坂東彌十郎)
– 大御所詩人でスオミの現夫。前妻との間の息子がいる。こだわりが強く見栄っ張りだが、自分のこと以外はケチである。
魚山大吉(遠藤憲一)
– スオミの最初の夫。以前は高校の体育教師をしており、スオミの元担任だった。
十勝左衛門(松坂桃李)
– スオミの2番目の夫。有名YouTuber兼実業家で、結婚前スオミは十勝の元で働いていた。
宇賀神守(小林隆)
– スオミの3番目の夫で、草野の上司。スオミを中国人だと思っている。忘年会で「ジーパン刑事」のコスプレをする悪癖がある。
乙骨直虎(戸塚純貴)
– 寒川の担当編集者。寒川には使い走りから掃除までさせされていて、当初草野は乙骨のことを寒川の秘書だと思っていた。
薊(宮澤エマ)
– スオミの同級生で相棒。いろんな人間を演じて、常に夫たちとスオミの側にいた。
映画『スオミの話をしよう』作品情報
作品情報
⚫︎ 製作国:日本
⚫︎ 尺:114分
⚫︎ 監督:三谷幸喜
⚫︎ 脚本:三谷幸喜
⚫︎ 撮影:山本英夫
⚫︎ 音楽:荻野清子
⚫︎ 衣装デザイン:宇都宮いく子
⚫︎ 英題:ALL ABOUT SUOMI
- 『THE 有頂天ホテル』(2006年)
- 『ステキな金縛り』(2011年)
- 『記憶にございません!』(2019年)
予告動画
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