Netflixシリーズドラマ『阿修羅のごとく』全7話が2025年1月9日から配信されました。
1979年に放送された向田邦子脚本のドラマ『阿修羅のごとく』のリメイクとなる本作。
父親の不倫をきっかけに炙り出される家族の問題や、当時の社会における男女の生き方を、是枝裕和監督が描きます。
本記事はネタバレを含みます。まだ未視聴の方はご注意ください◎
Netflixドラマ『阿修羅のごとく』1話のネタバレなしあらすじ
1979年1月、三女・滝子(蒼井優)からの「話がある」という電話で、四姉妹は夜8時に次女・巻子(尾野真知子)の家に集まることになった。滝子は話したいことは、どうやら父・恒太郎(國村隼)に関することらしい。
長女・綱子(宮沢りえ)は生け花の先生、巻子は二人の子どもを育てる専業主婦、滝子は図書館勤め、四女・咲子(広瀬すず)はカフェで働いている。いずれも実家を出ており、父と母・ふじ(松坂慶子)は2人暮らし。70歳になった父は定年退職しているが、元会社役員で現在は火・木曜だけ仕事に出ているようだ。
本題をなかなか言い出せない滝子だったが、意を決して、姉妹たちと巻子の夫・鷹男に、父が不倫をしていることを告げた。父が女性と子の3人で遊園地に出かけていたのを、滝子が偶然目撃。興信所を使って父の不倫を調査しいていた。姉妹たちは最初は「父がそんなことできるわけない」と信じていない様子だったが、滝子が証拠写真が入った封筒を取り出すと、ようやく事の重さに気づく。
土屋友子、40歳。それが父の相手だった。小学二年生の息子を育てている。寡黙で仕事一筋だった父に、別の顔があったことに四姉妹は動揺し、滝子と咲子は言い争いに発展する始末。ひとまず、母には父の不倫を隠すことで姉妹たちは合意し、その場は解散した。
翌日、綱子と巻子は、手切金で父と別れてもらうべく、友子に会いに向かったが…。
Netflixドラマ『阿修羅のごとく』1話の感想・見どころ
昭和後期の女性の生き方と結婚観
冒頭4分、私はげんなりしてしまった。作品の出来に、ではなく、昭和の男女格差と結婚観に!
女性が働くことはどちらかと言えば望ましくないことで、専業主婦になることが女性の理想の生き方。成人男女は当然結婚し、男は働き、女は家に籠り家事育児に専念する。おまけに巻子の夫・鷹男の言動にはちょいちょい男尊女卑の思想が滲む、という1970年代の価値観が冒頭4分で、たった4分で、お腹いっぱいなほど伝わります。胃にもたれる高カロリーな冒頭!
女に生まれただけで、”こう生きるべき”が決まっているなんて。そして個人の適性や意志が生き方に反映されにくいなんて、恐ろしすぎる…!
当時は、というかそれまで何百年とその生き方が当たり前だったから、彼らはなんの疑問も文句もなくそう思っているのは分かります。本作の舞台は1979年。男女雇用機会均等法は1979年代に制定されたので、女性が社会に羽ばたく寸前ではあるけれど、まだ一部の意識高い女子にしか働く意欲はなかったころだと思います。
滝子が電話で「話したいことがある」と言うと、姉や母は「結婚の話?」と返します。それくらい、当時は20代の女性が結婚を選ぶのは当たり前で、女性が何かやらかす心配も少なかったのかもしれません。
2025年の今、20代の娘が「折り入って話がある」と畏まった声で電話してきたら。お金の無心か金銭トラブル、妊娠してしまって、もしかしてワタシワタシ詐欺?…など、ネガティブな想像が真っ先に浮かびそうじゃないですか!その次に結婚でしょうか。
家電もサービスも、あらゆる機能が現代より劣る時代の家事は、時間も労力も比べものにならないほどの仕事でしょう。家事に専念する女性がいてこそ、家族の生活は成り立つ。この効率的な分業を極端に言うと、”結婚が1番の永久就職”になる。
そして何より、巻子は働く滝子を羨ましいとも思っていないし、専業主婦であることを嘆いてもいません。当時の理想の生き方ができているんだから、そりゃ悲しむわけがないですね。
巻子からすれば、男女ともフルタイムの仕事でへとへとになりながら家に帰り、生活のために仕方なく家事をこなして、慢性疲労と寝不足を抱える現代の私たちのほうが可哀想に見えるのかもしれません。
鷹男は、女性を見下しているというより、男は家族のために仕事を頑張っているんだぞ!えらいんだぞ!と優越感を抱いていると言う方が正しいかも。単純でちょっとおばか浅慮なだけで、悪い人ではなさそうです。
滝子の苦しみ
真面目で、堅物で、イノセントな滝子。父の不倫が絶対に許せなくて、真面目に考えてくれない姉妹に腹が立って、布団で声を押し殺して泣く姿は痛々しかった。父はもう子育てから解放されたわけだし、もう少し気楽に考えなはれや…とちょっとイラッともしたのは私だけじゃないはず!
でも、四姉妹の中で滝子の戦闘力が一番高いのではと思っています。
父の不倫を疑い、すぐに興信所に調べさせる行動力と執着心。間違っていることを正そうとする正義感とパワー。滝子にはクレーマーやモンペになれる素質がありそうな…。普段は自分を抑えているから、負の感情が振り切れたときの威力はどれほどか。
今は父の不倫や結婚プレッシャーで、苦しみを抱える滝子が、作品のラストで救われてほしいです。頑張れ、滝子〜!
生意気ゆえに対等な咲子
咲子と彼氏の英光(ひでちゃん)が、南千住の商店街を並んで走るシーンがとても好きです。途中で咲子は息も切れに引き離されていきますが…。ボクシングチャンピオンの夢に向かって力を合わせて生きる二人の対等な関係性が、肩を並べる位置関係に表れていました。
狭い下宿の一室で、布で空間を仕切って並んで寝る暮らしは、まるで『神田川』の歌詞のよう。布に映った咲子の下着姿のシルエットに見惚れ、思わず咲子に飛びかかったひでちゃんが、咲子に一喝されて「はい……」とうなだれる姿はほほえましくもありました。
母・ふじに、ひでちゃんを同棲相手として紹介したときは、「母の心配ごとを増やして、父のことを考える余裕をなくしたい」と言っていましたが、本心は母に安心してもらいたかったのだと思います。咲子が席を外している間に、ひでちゃんと母の笑い声が聞こえてきました。少なくとも、母に関わらせても恥ずかしくない存在として、咲子はひでちゃんを信頼しているのでしょう。
勝ち気で生意気な咲子が、家族にも彼氏にも対等に向き合っている。暮らしは不安定ですが、作中では誰よりも先進的で健全に生きているように思えます。
セリフ聞き取れない問題
本作のセリフ回し、ちょっとどころか、かなり早口。そしてあまり滑舌がよろしくない話し方をされているので、セリフ全然聞き取れない問題が私の耳で多発!日本語のドラマなのに、字幕を付けて見ています。
そうしたら登場人物の名前の漢字とかがわかるし、耳に神経を集中させなくていいから画面をじっくり見られるしで、意外とメリットもあったり。新たな発見でした!
もう何十年と話し慣れた家族同士の会話だし、これくらい力が抜けている声音が自然っちゃ自然なのかも。あと、両親と四姉妹それぞれの顛末を全7話にまとめようとすると、どうしても早口でしゃべらなければ収まらないのかもしれない。
みなさん聞き取れていますか?字幕、結構いいですよ…
Netflixドラマ『阿修羅のごとく』1話のネタバレ考察・解説
男女のバトル、家族のバトルで描かれることは
是枝裕和監督といえば「万引き家族」のように、家族以外の人が家族として共に生きる物語で、人と人との絆を炙り出すイメージが強いですが、今回はがっつり家族にスポットが当てられています。
阿修羅=仏教六道の1つ「修羅道」にいる怒りや嫉妬に満ちた存在。インド神話では神に敵対する者でもあり、争いを好む鬼神と言われることも。父の不倫発覚を発端に、これから家族内の争いが始まるのは必至。
家族といえど、夫婦は血の繋がらない男と女で、なろうと思えば他人になれる。〇〇家のケンカは、血の繋がりのある家族内の争い、血の繋がらない男女すなわち夫婦の争い。もっと拡大して言うと、この時代の男女の生き方に反旗を翻す女の闘いです。
絆とは対極の”闘争”を経て、是枝監督は何を提示してくれるのでしょうか。
最初に阿修羅になったのは母だった
父のコートのポケットから出てきたパトカーのおもちゃを壁に投げつける母の顔。母は、父の不倫を知っている。長い時間、アップで映し出される表情は、静かな怒りに満ちています。この瞬間、母は阿修羅になった。オープニングでは、四姉妹がそれぞれ物を投げつけたり殴るカットがありますが、作中で先陣を切って物を投げたのは母でした。
1話の終盤、四姉妹と母は人形浄瑠璃『日高川入相花王』を観劇。5人の視線は、恋人と船で逃げた男を追うべく大蛇に姿を変える清姫へと注がれます。この時5人の中でただ一人、阿修羅と化している母。清姫に重ねて自分を見ていたような、意味ありげな表情をしています。
そして、1話ラストで話は母がミニカーでぶち抜いた襖の穴に及んだ際。父は、「そりゃあるさ、人間だもの。な?」と母に話を振りますが、母は否定も肯定もしませんでした。ここにも、人間から阿修羅に変わってしまった母の憤怒が表れているように思います。
母はちょうど満期を迎えたへそくり貯金もあり、望むなら別れる選択肢もありそうですね。
ここに注目: 人形劇を見ている場面、意味ありげな表情で舞台を見つめる母
愛の炎を燃やす父
巻子の夫・鷹男が、不倫は濡れ衣ではないかと暗に尋ねると、父は「火があるから煙が立つんだよ」と不倫を肯定します。もう事態はどうにもならないと諦めつつも、謝る気はない様子。それから、父は焚き火に枝をくべて火を強めます。燃える火は争いの予兆、愛人への愛がより強まったとも取れます。
父が臨戦体勢なのは間違いなく、同じく不倫をしている鷹男が、女チームと父のどちらに加担するのかも気になるところです。
ここに注目: 父が枝をくべて焚き火の炎を強くする。燃え上がるのは愛の炎、闘いの炎
▼ 次回2話のネタバレ感想&考察はこちら ↓
Netflixシリーズドラマ『阿修羅のごとく』第2話画像引用:ナタリーNetflixドラマ『阿修羅のごとく』2話ネタバレなしあらすじ1979年の冬、新聞に父の不倫をめぐる“投書”が掲載されたことから、四姉妹の間に波紋が広がる[…]