Netflixシリーズドラマ『阿修羅のごとく』最終話
見渡すかぎりあたり一面泥沼ドラマも、ついに最終回まできました。先に言っておくと、咲子にもう一つ不幸が襲いかかります。もう勘弁してあげて…。
それでも、四姉妹がようやく自分の本心と向き合い、なりふりかまわず踏ん張る姿に励まされ、ちょっとだけ救いがある最終話です。女は強い!
本記事はネタバレを含みます。まだ未視聴の方はご注意ください◎
Netflixドラマ『阿修羅のごとく』最終話ネタバレなしあらすじ
英光は意識不明のまま入院を続けていた。咲子は献身的に看病を続けるが、金銭面の不安もあり、英光の母・まきと咲子は険悪になっていく。
思い詰めた咲子は、街で声をかけられた男とホテルに行ってしまう。後日、その男は咲子がボクサー陣内英光の妻だと気が付き、咲子に100万円を要求してきた。
父・恒太郎は、別れた浮気相手の息子・省司と、こっそり喫茶店で会い続けていた。省司が描いた恒太郎の似顔絵を見て、「新しいパパが怒らないか?」と尋ねる恒太郎。すると省司は、本当は新しいパパなどいないことを明かす。元愛人・友子の再婚は、自分と別れるための嘘だったのだ。
そして、巻子の家に鷹男の浮気相手・啓子が尋ねてくる。
Netflixドラマ『阿修羅のごとく』最終話のネタバレ感想・見どころ
咲子が一生思い出すのがあんな男だなんて
ボロボロの咲子がふらっと突いて行った男…すごく気持ち悪くないですか!?ベッドでまったりピロートークに、「源五郎さんは…」って昔話の続きを語り出すのも引くし、優しいようでいてじっとりねっとりとした口調も女に災いをもたらす気配がします。
「口開いてますよ」で自分の口が開いているのを指摘されたと勘違いして咲子が笑い → 感情振り切れて泣き出すところはまだ良かった。咲子やっと泣けてよかったねとさえ思いました。
そのあと男が言った「ああ…大丈夫ですか…、ああ…」で鳥肌が立ちました。言葉で表せない、理由のわからない嫌悪感。強いて言うなら、えっちなビデオの冒頭にそのまま使えそうな、下心が透けて見える言葉に対する気持ち悪さ…。
この男、名前を明かしていないので、仮にジト彦と呼ばせてもらいます。(ヌメ助でもネバ郎でも、湿った名前ならなんでも可)
ジト彦は会話の中で「生徒に」って言ったから、この人は先生でまともな人間なんだと思った咲子が警戒心を解いてしまうのも無理はない。でも、ジト彦は先生?中学?高校?…、って聞かれても、肯定も否定もしていないんですよね。本当に先生なのかはわからないまま。
してしまったことを他人に打ち明けたって、もうゼロにはならない。失敗する前の自分には戻れない。咲子はこの先ずっと、ふとしたときにこの男を思い出して、後悔の黒い炎で心を焼くのでしょう。
誰にもそんな後悔の一つや二つあるとは思うけど、咲子を縛る後悔がこんな男によって!っていうのが悔しくてたまりません。
ついに炸裂した滝子砲!
滝子が爆発したときのパワーが見てみたい、と1話からずっと思っていたので、今回咲子を脅かすろくでもない男に滝子砲が炸裂して清々しい気分です。
病室でジト彦をシメたとき、この日スーツだった勝又はサングラスをかけてヤクザ映画ばりの強面な雰囲気でドア前を固めていました。見た目は完璧!勝又はしゃべるとボロが出るの子なので、完全に外見で威圧する担当で特に言葉発せずでしたが、内心では「うちの嫁、やっぱ最高」とか思ってたんだろうな。笑
ワーッと相手を責めながら自分もダメージを受けて泣き崩れる滝子も、たった一度の気の迷いを許せず全部ぶちまけてしまう咲子も、イノセントで潔癖で、底抜けに優しい子たちです。
啓子が一番の阿修羅
作中の女たちの中で、一番阿修羅と呼ぶに相応しいのは啓子だと思います。だって、鷹男不在の巻子の家に乗り込んでくる理由が、常人には到底理解できない!
巻子が啓子に直接愛人疑惑をぶつけたわけじゃないのに、事を荒立てにくるなんて、丸腰の敵の陣営にマシンガンを持って乗り込んでいくようなものじゃないですか。
「あなたが疑っている通り、私が浮気相手です。あなたより女として価値がある私は、あなたの夫に選ばれるだけじゃなく、女性の正規ルートも順調に歩み、結婚いたします。存分に羨ましがって、悔しがってください。そして、もうこれ以上騒いで私に迷惑かけんなよまじでうっせえから。」
と啓子の心の声がもう、全身からはっきりと聞こえました。何もかもが、仲人を頼む人の態度じゃない。眼中にない巻子にはどう思われたって構わない、というのが一挙手一投足一言すべてに滲み出ている。できる女武装でスラリと立つ啓子は、所帯じみた”昭和の平凡な家庭”インテリアの巻子家リビングには、馴染むどころか異物として浮いてさえいました。
巻子を叩きのめして優越感を得たいのは、わからなくもないけれど、啓子の心にはそうやって埋めなければならない穴があったのでしょうか。あってほしい。なかったなら本当にただ鬼じゃないか。
巻子が鬼になった瞬間
暗いキッチンで鷹男のコップを奪いとり、目をかっ開いて鷹男を睨みつけたまま水を飲み干す巻子。狂気をはらんだ巻子の顔。巻子が人間の心を捨て、阿修羅に変わった瞬間です。
綱子曰く、巻子は「姉妹の中で一番、母と心が似ている」。夫の浮気に、外見は良妻のまま心は鬼になった母・ふじとは違い、巻子は長らく人間の心のまま煩悩を抱えてのたうちまわってきました。
今まで「見ぬこと清し」の精神で、浮気に口をつぐんできた巻子は、鬼になってようやく鷹男に反撃開始!
母は「女は言ったら負け」を掲げて、無言と笑顔で父を静かに責めたけど、巻子はそうじゃなかった。きちんと浮気を口に出して、鷹男に事実を言わせようとしました。
「女が家庭の平穏を守るために、ただ黙って男性に付き従う時代は終わったのよ」という、主婦代表・巻子の主張にも思えます。これからの時代に繋がるささやかな希望を感じられて、鬼になった巻子には祝福の拍手を贈りたい気持ちです!
綱子と滝子には特に言うことなし
最終話ラスト、綱子は大小色違いの手ぬぐいを手すりに干している様子で、貞治と関係は続いていることが示唆されましたし、滝子と勝又は相変わらずどころか、滝子の妊娠で確変モード突入でハッピー増し増しでした。
綱子姉さんと滝子は、そのまま幸せに楽しくよろしくやってくれたらそれでいい。以上!
そういえば、この作品のカップルたちは、何を乗り越えても別れはせず、ずっとそのまま関係を続けますね。他の作品だったら、困難を乗り越えたり、汚点を是正した成長した登場人物たちは、人生ステップアップのために別れを選んだりしそうなところを、いやいや人間そう綺麗にはいかないよと言わんばかりに元の状態に戻っていく。
不倫だったり許し難い点だったり、ほとんどの夫婦が大なり小なり困難を抱えている中で、潔く別れを選べる女性のほうが、稀有なのかもしれません。
Netflixドラマ『阿修羅のごとく』最終話の考察・解説
「女は阿修羅」の意味
鷹男が言った「女は阿修羅だよ」の言葉。作品タイトルにもなっている阿修羅が、この作品で何を指しているのか改めて考えてみます。
仏教での阿修羅は、六道(ろくどう)の一つ「阿修羅道」にいる、怒り・嫉妬・執着に満ちた存在。争いが絶えない阿修羅道は、作中での女たちの心の内側そのものです。
女はおっとり微笑んでいるようでも心の内は、怒りに燃え、嫉妬で焦げ、常に何かと争っている。外側の言葉や表情と、内側で思っていることはまるで違うのです。
そんなことは誰もに当てはまり、何も女に限ったことではありません。でも、まだ女性が一人で生きていく術が乏しかったこの時代。生きるため、平和を保つため、家庭に置いてもらうため、女性は時には感情を飲み込まなければいけないことは格段に多かったでしょう。阿修羅になることは、女にとって、より楽に生きるために必要な通過儀礼だったのかもしれません。
英光も浮気していた?
咲子が病室で言った「今が一番最高に夫婦だって気がする。もうどこにも行かない」の言葉に違和感を感じませんか。過去に浮気歴がありますが、この咲子の言葉は、今でも英光は咲子から離れてどこか(ほかの女)へ行っていた、との隠喩だったと思います。
最終話ラスト、男は外で後ろめたいことがあると家で優しい。コートを買ってきたり寿司を買ってきたりする、と四姉妹は笑います。寿司を買ってきたのは父。「コートを買ってきたり」は、咲子に毛皮のコートを買い与えた英光のことでしょう。
想像ですが、英光の夢が順調に叶うにつれ、お金の遣い方が派手になるのと同じように女遊びも派手になった。金と女は、強者の特権。これも英光にとっての勝利への願掛けだと、咲子は嫉妬を我慢して容認していたのではないでしょうか。
綱子は本当は心中しようとした?
一酸化炭素中毒で意識を失っているところを隣人に発見された綱子と貞治。発見した隣人が「心中よ!」と電話したもんだから慌てて駆けつけた巻子に、綱子は「心中なんてバカなこと言わないでよ」と否定します。
しかし、翌日のバス停で巻子は「お姉さん、もしかして…」と何かを言いかけてやめます。このとき巻子は、「本当は心中しようとしたんじゃないか?」と聞きたかったのでしょう。
根拠は二つ。
- 病院に駆けつけ、綱子に声をかける巻子を見ようともせず、綱子はただ呆然と天井を見つめていた
- 「目覚めて最初に巻子の顔を見てホッとした」と言う綱子
呆然と天井を見ていたのは、死ねなかったことを受け入れようとしていたから。そして次に巻子の顔を見て、自分がまだ生きていることに安堵した、と受け取ることができます。
奔放で楽観的な綱子のことなので、自分と貞治との関係を後ろめたく思い悩み「一緒になれないのなら心中しよう」と考えていたわけではないと思います。一酸化炭素中毒は、本当にただ事故だった。
でも、薄れゆく意識の中で「このまま一緒に死んでしまってもいいや」との考えが頭をよぎった可能性は0じゃない。綱子だけが知ることですが、そんな壊れそうに脆い一面が、もちろん綱子にもあるのだと思います。
最終話を区切る暗転と明転
最終話、ストーリー展開が「暗転」と「明転」で、視覚的に明確に区切られました。
暗転以降、姉妹たちに悪いことが連続して降り注ぎ、さらに状況は悪くなります。そして明転を迎えてやっと、彼女たちは怒りや嫉妬から解放され、修羅道から抜け出す一歩を踏み出します。
暗転
咲子と声をかけてきた男がホテルにいる場面。画面は真っ暗になり、ゲンゴロウさんの話を続ける男の「真っ逆さまに転がり落ちました」の声だけが聞こえる。
ここからトラブルが立て続けに起こり、男のセリフ通り、状況はさらに悪い方へと転げ落ちていきます。
- 綱子の心中騒ぎ
- 咲子が男から金を要求される
- 父と省司は再び別れる
- 洋子が万引きをする
- 啓子が巻子の家に仲人を頼みに来る
明転
病院で咲子がシーツを干していると、大きく広げられたシーツが全体を覆い、画面はほぼ真っ白になる。
このあと、各人物たちの抱えた問題はひとまず落ち付き、状況は好転し始めました。
どちらも咲子がメインの場面ですね。ストーリーの区切りが強調されこちらの気持ちもガラリと変わる、印象に残るショットでした!
▼ 前回6話のネタバレ感想&考察はこちら ↓
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