趣味がすべて自宅で完結する超インドア人間の私は、「食べ物の不安がなければ今後一生家から出られなくなっても別にいいかな〜」とたまに思うのですが…、本作『ブリック』は、突然現れた黒い壁によって家から出られなくなってしまうお話です。
壁は物理の常識が一切通用しない謎の物資でできていて壊れないし、壁のせいで電波も通じず情報もない。
何から何まで理解不能な空間に閉じ込められてしまったら、どこまで冷静でいられるだろう。
自分の知っている世界が、無言のまま急に消失してしまう不安と恐怖。その言葉にし難い感覚を映像にした小さな異色作『ブリック』をご紹介します。
本記事は感想にネタバレを含みます。まだ未視聴の方はご注意ください◎
Netflix映画『ブリック』の評価
総合評価 2.8 / 5 点
評価コメント:何を信じるべきかわからないのが一番怖い
家が謎の黒い壁に囲まれて出られない!ベースはシンプルな脱出ゲームに、理解不能な現象や組織の思惑が重なって、オリジナリティが光るSFスリラーです。
物理の法則も通用しない、本当に意味不明な黒い壁の存在だけでも怖いのに、建物内で住民は変死しているし、陰謀論者はここぞとばかりに狂気を振りかざす。今まで信じていた世界が輪郭を失い、なにを信じるべきかわからないという状況の怖さがじわじわと襲ってきます。
そして、最後は息を呑んで見守ることになるーー。
ただ、不安や恐怖を呼び起こす超次元現象や思惑は謎のままで終わるので、はっきりしたい人にはモヤモヤが残るかも。
キャラの描写も弱く、際立つ個性も特になし。
設定と壁が現れたときの混乱まではすごくいいのに、それ以降はなんだか惜しいな〜という感想です。
- 『CUBE』『メイズ・ランナー』のような脱出スリラー作品が好きな人
- 冷たい皮肉を交えた切れ味鋭いフィクション作品を見たい人
- 謎考察系作品は片っ端から見てやるぜ!っていう考察マニアさん
- 隠された陰謀や世界の裏側の存在にそそられる人
Netflix映画『ブリック』のネタバレなしあらすじ
ティムとオリヴィア夫婦はある出来事以来、ぎくしゃくした関係が続いていた。ついにティムと別れ家を出ることを決心したオリヴィアがドアを開けると、アパートの建物全体が謎の黒い壁に覆われ、閉じ込められてしまっていた。
スマホの電波は通じず、助けを呼ぶことはできない。とにかく外に出られさえすれば助かると、建物内にいた住民たちは協力して脱出方法を探すが、ドリルや銃でも壊れない壁を前に途方に暮れる。
パニックの中で謎の突然死を遂げたアントンが、壁について何か重要な手がかりを掴んでいたことがわかり、住民たちはアントンの思考や行動を辿っていく。その一方でアントンの友人ユーリは、怪しい言動を見せ始める…。
Netflix映画『ブリック』のネタバレあり感想
想像さえ無意味な究極の恐怖
自分の家で、いつもと変わらない生活をしていただけなのに、突然世界が失われてしまう。
戦争や災害によって、これは実際に起きてきたし、作品でも何度も描かれてきました。
それらの場合、戦争や災害に自分が巻き込まれたこと、この状況を解決する手段があることが想像できます。想像できたところで辛いことには変わりないけれど、終わりがあると知っていることは確実に救いになる。
しかし本作では、謎の物質でできた壁に囲まれ、建物の外の世界から隔離されます。壁は物理法則を越え、これまで信じてきた常識は及びません。想像で仮説を立てても、確証がなければそれが正しいかどうかもわからない。この壁の中では想像さえ無意味です。
人を狭い空間に閉じ込めて、情報を遮断するだけで、簡単に世界は消えてしまいます。「何を信じるべきかわからない」ということが、こんなにも自分の認識世界を揺るがす恐怖になり得るとは。
さらに怖いのは、市民の知らぬところで、政府や軍事組織の思惑が勝手に動いていたこと。それが戦争防衛のためのシステムだというのがゾッとします。
政府も戦争は免れないと思い秘密裏に計画を進行していたなんて、今まで当たり前に生きてきた平和な世界すら失われていくようです。
今のご時世、もはや「戦争は永遠に起こらない過去のこと」と楽観的に生きることはできませんが、こうして可能性を突きつけられると、その怖さを改めて実感します。
作中では、世界中の人がハンブルグの街に隠された思惑を知ってしまった。ティムとオリヴィアが脱出した外の世界は、戦争や大気汚染は起きていなかったものの、見渡す限り黒レンガだらけの変わり果てた世界は、もう以前と同じには戻れないでしょう。
全体的な設定は『CUBE』でしたね。脱出後にもディストピア世界が目の前に広がっているという『メイズランナー』的な絶望の二段階構造は、物語の広がり・奥行きが感じられてわくわくしました!
脱出できた要因が運だったのが残念
私的に残念だった点が、脱出ゲームなのに脱出できた要因がほぼ、「運」だったこと。
この手の作品は、中に閉じ込められた人たちが持てる知恵や技術を駆使して、助け合いながら脱出に近づいていくのが旨みだと思っています。
ティムはゲームプログラマーだし、オリヴィアは建築家だから、最初は喧嘩していた二人も協力しながらお互いの大切さを認識し合うだろう…との想像を、本作はなんと大きく下回ってきました。笑
脱出できたのは、運。たまたま、壁関係者のアントンが同じ建物に住んでいて、脱出アプリ作っていたからというラッキーに尽きるのが、がっかりポイントでした。
オリヴィアなんて建築家らしいことなーーーんにも言わなかったな。
レアちゃんも、アントンの試行錯誤のメモを見て「なにを考えていたのアントン?」なんて、誰でも言えることだけ言って部屋をウロウロして退場してしまいました。これがスーパー数学大学生で、アントンの紙片から秀才にだけわかるヒントを得た!だったらおもしろかったし、存在も際立ったのに。
ハンブルグ市内のすべての建物で、同じようなことが行われている中で、そこにアントンが住んでいたかが、脱出できるか否かの分かれ目だったとさ。本作の悪役ユーリさえも、たまたま泊まりに来ていて居合わせた陰謀論者っていうのもなんだか軽い。
運も実力のうちなんだろうけど、脱出劇としては、ねえ。壁発生時にたまたま外にいた人こそ、真の強運の持ち主ですね!
Netflix映画『ブリック』の考察・解説
【考察】大家フリードマンの両腕が失われていた理由
両腕が切断され、不可解な状態で亡くなっていた大家のフリードマン。
フリードマンの死の状況には特に言及されないままだったので、おそらくこうだろうという考察を残しておきます。
フリードマンの両腕がなかった理由について、結論から言うと以下。
【解説】閉じ込められたハエと動物たちが示すもの
ティムとオリヴィアの運命を象徴するハエ
本作にはなにかのヒントのような意味深な存在感で、ハエがたびたび映し出されました。
このハエは、ティムとオリヴィアの運命を示唆する象徴としての役割を与えられています。
冒頭、ティムはハエをコップに閉じ込めたあと外に逃がそうとして失敗。自分もハエも壁によって建物内に閉じ込められます。
ラスト、ティムが逃がし損ねたハエと同個体かは不明ですが、バンに乗って脱出する二人を追うようにハエが飛んでいきます。
ハエが羽ばたいていくブーンという音はやがて、空を飛び交うヘリの音に変わります。
ユーリの嘘を告発する動物たち
アントンの寝室には、タランチュラ・イグアナ?・カマキリがペットとしてケースの中で飼育されていました。
ユーリがアントンが急死前の状況について言及する間、この動物・昆虫たちが順番に映し出されます。
この動物たちは、ユーリ以外にアントンの死の真実を知る存在です。
ユーリが嘘を付くたびに、毒々しい色合いの少し不気味な動物たちが映し出されるのは、「ユーリが嘘をついているよ!」という警告・告発を意味します。
この時点ではまだティムたちはユーリを疑ってはいませんでしたが、鑑賞者にはここでヒントが与えられていたというわけです。
Netflix映画『ブリック』の主な登場人物・キャスト
ティム・アルノフスキー(マティアス・シュヴァイクホファー)
– ゲーム開発者。仕事に追われてオリヴィアとの時間が取れず、夫婦仲はギクシャクしている。
オリヴィア・ニール(ルビー・O・フィー)
– ティムの妻で建築士。2年前に流産して以降、現実から目をそらし続けるティムとの関係に悩んでいる。
マーヴィン(フレデリック・ラウ)
– 民泊でティムの隣の部屋に滞在していた。不安から薬物で暴れるが、根は心優しく徐々に信用されていく。
アナ(シラ=アナ・ファール)
– マーヴィンの婚約者。冷静でテキパキとした人柄で、ティムたちと協力しながら率先して手がかりを探る
レア(サルバー・リー・ウィリアムズ)
– 母を亡くし、祖母オスワルトと暮らしている。祖父思いで、頑固な性格は母譲り。
オスワルト(アクセル・ヴェルナー)
– 孫・レアと暮らしている。戦争を経験し警戒心が強く、部屋に入ってきたティムを追い返そうとする。
アントン(ヨセフ・ベルセク)
– アパートの住人。ティムやオリヴィアとは挨拶を交わす程度で、職業などは謎に包まれていた。
ユーリ(ムラタン・ムスル)
– ユーリの友人でたまたま泊まりに来ていた。元警官。
Netflix映画『ブリック』の作品情報
作品情報
⚫︎ 製作国:ドイツ
⚫︎ 尺:100分
⚫︎ 監督:フィリップ・コッホ
⚫︎ 脚本:フィリップ・コッホ
⚫︎ 撮影:アレクサンダー・フィッシャーコーゼン
⚫︎ 音楽:アナ・ドラビッチ,マルティナ・アイゼンライヒ,ミヒャエル・カデルバッハ
⚫︎ 原題:Brick
予告動画
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