映画『フランシス・ハ』ネタバレ感想&考察解説|夢を諦めて会社員になったすべての人に捧げる!

グレタ・ガーウィグ監督・脚本作が好きです。グレタが描く、不安と希望がごちゃまぜの複雑で曖昧な青春時代は、懐かしいのに新鮮で、心を揺さぶります。

今回は、グレタ主演&共同脚本作『フランシス・ハ』のレビューです。

先に言っておくと、昔”何か”になる夢を追いかけていた人は、「この主人公、俺か?(私か?)」と驚くでしょう。

アメリカでもたくさんの元夢追い人から共感を集め、上映4館だけの小品だったこの作品は、1,557館に拡大上映されスマッシュヒットを飛ばしました。

フランシスの成長する姿が、どうしてこんなに心に刺さるのか、感想と考察を残したいと思います。

本記事は感想にネタバレを含みます。まだ未視聴の方はご注意ください◎

 

映画『フランシス・ハ』の評価

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総合評価  3.9 / 5

評価コメント:成功しなかった人生も悪くない!

『フランシス・ハ』は、昔、追いかけた夢を諦めて、会社員になったあなたの物語と言っても過言ではありません。

才能豊かでもないし、人付き合いも下手だし、お金もない。決して恵まれているとは言えない、主人公のフランシス。

でも彼女は、住む場所を転々とする中で自分と向き合い、私はこれでいいのだ!という結論に辿り着く。ラストではフランシスの表情は悲壮どころか清々しく、身体の隅まで生き生きとしているところに勇気をもらえます。

本作が口コミで広がりヒットに至ったのは、とんでもなく多くの「”何者か”になれなかった人たち」を救ったことの証です。

  • 音楽,ダンス,アート,小説,漫画など…本気で追いかけた夢を諦めて会社員になった人
  • グレタ・ガーウィグ作品が好きな人(特に『レディ・バード』)
  • 普通の人とは違う、独自の世界に生きる人たちと過ごした夜がある人
  • 親友がほかの人に見せる知らない一面を知って嫉妬したことがある人

 

映画『フランシス・ハ』が視聴できる配信サービス

  • U-NEXT
  • Hulu
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  • Amazon プライムビデオ(レンタル)
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映画『フランシス・ハ』ネタバレなしあらすじ

モダンダンサーを目指す27歳のフランシスは、出版社に勤める親友ソフィーとブルックリンでルームシェアをしている。

彼氏から同棲の誘いを即答で断るほど、フランシスにとってソフィーとの暮らしは何よりも大切だった。彼氏とは別れたが、フランシスにはソフィーさえいればよかった。

しかし、ソフィーは他の友達とルームシェアをすると言い、同居は解消になる。ソフィーとの楽しい暮らしと家を失ったフランシスは、心身ともに安らげる居場所を求めて、街を転々とすることになる。

ダンサーになる夢を追い続けたいが芽は出ず、お金がなくて生活も苦しい。フランシスは住む場所を変えながら、自分と向き合い、どう生きるかを考えていく。

映画『フランシス・ハ』ネタバレあり感想

夢と現実に折り合いをつけるビターな青春物語

凡人が努力と忍耐の果てに夢を叶える映画は数多ありますが、この『フランシス・ハ』は、夢追い人のフランシスが凡庸さを認め、現実を受け入れて夢を諦める様子を描いた、ほろ苦い作品です。

でも暗いお話じゃないのは、フランシスがどんな状況でも、今できることを淡々とこなしていくから。落ち込んだとしても、すぐに現状を受け入れてニュートラルな状態で再び立ち上がれる。それは、つまり「強さ」です。

フランシスが夢を諦めた先に待っていた人生が、思っていたほど悪くなかったことに、救われた人も多かったろうと思います。

事務職に就いたフランシスは、ダンサーを目指す間ずっと付いて回っていた「金欠」、「周囲への嫉妬」、「焦り」から解放されました。振り付けの才能を開花させ、前とは別の形でダンスも続けています。

ダンサーとしての成功は失ったけど、ダンスやアーティスティックな友達、そしてソフィーも、フランシスの人生には残ったままです。

成功するだけがすべてではない、成功しなかった人生もいいもんだ!と、「何か」になれなかった人の現在を肯定してくれる作品。ミニシアターから、口コミでじわじわと広がっていったのも頷けます。

雰囲気目当ての友達

フランシスが、アーティスティックで”センスというものをわかっている風”のレヴとベンジーと暮らし始めると、いかにも自分もあっち側の人間だと言わんばかりの言動になっていきます。

これ、すっごく共感できて、懐かしさと苦々しさを感じたんですが、みなさんどうでしょう?

「あの人と一緒にいたら、自分もそっちの世界にひとっ飛びに仲間入り!」という期待から、近づいた人。おかげで新しい世界に触れ、たくさんの横道に迷い込み、楽しい青春を過ごせました。今もお元気にしていますか。その一方で、その世界の話が通じないこれまでの友達とは前ほど頻繁に会わなくなったり…。

デザイナーズ家具やレコード、アートに囲まれた家での、レヴとベンジーとのトキワ荘的ルームシェアは、ダンサーを目指すフランシスの自意識を柔らかくくすぐり、陶酔でうっとりさせます。

その状態のフランシスは「遊ぼう」を連呼、本人は崇高な世界に生きているようでも、側から見れば現実から逃避していました。

変わってしまったフランシスに、ソフィーが「夢みがちで部屋が汚くて鏡ばかり見るフランシスのままでいて」と言うのが、切なかった。

若さって、振り返るとどうしてこうも苦いんでしょうねえ。

でも、シェアハウス開始直後にフランシスがニューヨークの街を走るシーンは、心の高揚が全身に現れていて、羨ましいほど軽やかでした!

映画『フランシス・ハ』考察・解説

【解説】地に足をつけたフランシス

日本語の「地に足をつける」に相当する言葉は、海外にもあるようで、英語だと”feet on the ground”。”grounded”だけでも「安定した、賢明な」の意味があります。

終盤、ソフィーが乗ったタクシーを見送るフランシスの、アスファルトをグッと踏みしめる裸足。

このフランシスの裸足のカットから切り替わった次のシーンでは、フランシスは事務職に就いて、安定した生活をしています。あの裸足の朝を機に、フランシスは文字通り、地に足をつけた生き方を選びました。

フランシスがソフィーと喧嘩した夜と、ソフィーがパッチと喧嘩してフランシスの学生寮を訪ねてきたときも、酔いのめまいを覚ますために、床に足をつけたままベッドに横たわるシーンがありました。

これも、フランシスとソフィーがそれぞれこのあとに、現実と向き合って地に足をつけた選択をするという示唆だったのかも。

【考察】フランシスがイスを捨てたことは何を表す?

作中では、イスが持ち主のセンスを象徴するアイテムでした。

レヴとベンジーのシェアハウスのリビングには、イームズチェア。フランシスとソフィーが暮らした部屋も、ミッドセンチュリーな雰囲気の家具で揃えられていました。

フランシスがソフィーの彼氏・パッチを「ほっといたら応接室みたいなカウチを選ぶ」と形容したのは、真面目でおもしろみがないという揶揄でした。

フランシスは中盤、貸し倉庫に収まりきらなかった古いイスを、「ご自由にお持ちください」と処分します。

このイス、実はそれまでのどの場面にも出てきません。でもフランシスが倉庫にこのイスを運んできたことから、シェアハウスにも持ち込んでいたことがわかります。

ダイニングチェアのような木製の、少しもおしゃれじゃなくてボロボロのイスは、平凡なフランシス自身と重なります。おしゃれな家具だらけのシェアハウスで、画面の外に見えないように置かれていたのは、芸術の素質に乏しい自分から目を背けるためでしょう。

おそらく、このイスはソフィーとの家で使っていたと思います。ソフィーと喧嘩したフランシスは、ソフィーへの心理依存を解消し自立しようという決意をして、イスを手放すことにした。倉庫にも入り切らないし。

フランシスはこのイスを、ゴミとして捨てるのではなく、ご自由に〜で他の人に譲ることにしました。自分の分身であるイスを、新しい環境に送り出したのです。

どう見てもボロボロで壊れかけのイスなのに、「壊れなし」と書いて貼ったところにも、フランシスが中途半端なありのままの自分で生きいていこうとする意思が現れています。

【考察】パリにいることをソフィーに言わなかった理由

まだ二人が一緒に暮らしていたころ、フランシスはソフィーによく「夢の話」をねだっていました。ダンサーと出版業界でそれぞれ成功したらパリに別宅を持つ、という想像のお話。

パリは二人にとって、夢と密接した特別な場所です。

そのパリに、半ばやけくその弾丸旅で来たフランシス。パリ滞在中、ソフィーから電話で送別会への誘いを受けても、自分がいまパリにいるため行けないとは言いませんでした。

根本には、ソフィーに愛想を尽かされたくないというのもあるし、一緒に夢を語った手前の恥ずかしさもあると思います。でも一番は、ソフィーだけには情けない姿を見せたくないというプライドが、フランシスの原動力になっているからです。

ラストでも、ソフィーがニューヨークに帰ってきても顔向けできるように、ふらふらした住所不定フリーター生活を脱して、職を得て新居を構えたのでした。

【考察】タイトルに込められた意味

タイトル『フランシス・ハ』は、ラストでフランシスが新居ポストに入れたネームラベルに由来することが明らかになります。

手書きした文字が大きすぎて、ネームラベルの枠に納まりきらず、「Frances Ha」で途切れてしまったのでした。フランシスの苗字は、はっきり見えませんでしたが“Halladay”みたいです。

この最後のシーンからは、中途半端な状態でも気にせず胸を張って生きろ!枠に収まらなくても自分がいいと思えばそれでいい、という前向きなメッセージが感じられます。

これは『レディ・バード』や『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』など、ほかのグレタ監督作品にも共通して読み取れます。

タイトルの謎が解けるカタルシスも、本作の評価される点の一つです!

映画『フランシス・ハ』主な登場人物・キャスト

フランシス(グレタ・ガーウィグ)
モダンダンサーを目指す27歳。空気が読めず浮いてしまうこともあるが、親友ソフィーとは気が合い一緒に暮らしている。

ソフィー(ミッキー・サムナー)
出版社勤務。フランシスとは大学からの付き合いの親友。

レヴ(アダム・ドライバー)
彫刻家。ソフィーを介してフランシスと知り合った。ソフィーと同居を解消したフランシスは、レヴのシェアハウスに引っ越してくる。

ベンジー(マイケル・ゼゲン)
脚本家志望。フランシスを非モテとからかうが、家では映画を見たり一緒に過ごすことが多い。

映画『フランシス・ハ』作品情報

作品情報

⚫︎ 公開年:2012年/日本2014年
⚫︎ 製作国:アメリカ
⚫︎ 尺:86分
⚫︎ 監督:ノア・バームバッグ
⚫︎ 脚本:ノア・バームバッグ、グレタ・ガーウィグ
⚫︎ 撮影:サム・レヴィ
⚫︎ 音楽:ジョージ・ドラクリアス
⚫︎ 原題:FRANCES HA
ノア・バームバッグ監督の主な作品
  • 『イカとクジラ』(2005年)
  • 『ヤング・アダルト・ニューヨーク』(2014年)
  • 『マリッジ・ストーリー』(2019年)

予告動画

主題歌

デビット・ボウイ「Love Story」

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