映画『恐怖のメロディ』ネタバレ感想&考察解説|革新的すぎる元祖ストーカー映画!イーストウッド監督デビュー作

最初は好印象で、楽しい夜を過ごしたはずだったのに。あれが地獄の幕開けだったなんて…。

今回は「元祖ストーカー作品」を。監督は、我らがクリント・イーストウッド。

邦題はホラーっぽいけど、スリラーです!(昭和のB級な邦題ってなんかいいよね)

人間の醜い心理を晒す重苦しい作品がお好みの方におすすめな、『恐怖のメロディ』のレビューです。

本記事は感想にネタバレを含みます。まだ未視聴の方はご注意ください◎

映画『恐怖のメロディ』の評価

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総合評価  3.3 / 5

評価コメント:何もかも、気付くのが遅すぎた

1971年当時まだ「ストーカー」という概念が確立していなかった時代に、“狂気の女ストーカー像”を映画として固定化した元祖ストーカー映画!

ほんの出来心の軽い情事から始まる物語だが、イーストウッドの監督デビュー作にして、現代に通じるリアルな人間の暗部を鋭く深く描き出している。

もっと早くにイブリンの本性を見抜けたら、警察に相談していたら、トビーと別れなければ、女遊びをしなければ。いろんな「遅すぎた」が招いた恐ろしい出来事。

めんどくさい女どころか、怨霊のような執着で異様な存在感を放つイブリンは、デイブの拒絶すら愛の証と解釈する気狂いっぷり。

しかし「私は何なの?商売女の姿でお呼びを待つだけ?」という一言には、報われない恋に苦しむ女性としての切実な叫びが宿っており、彼女がただの怪物ではなく、女性の悲痛をも映す存在であることが浮かび上がる。

 

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映画『恐怖のメロディ』ネタバレなしあらすじ

カリフォルニア州モントレーの海辺の町に暮らすデイブは、ラジオ局KRMLの人気DJ。そろそろステップアップのため、サンフランシスコのラジオ局への移籍も狙っている男盛りだ。

女遊びが派手でプレイボーイなデイブの番組は、詩とともに音楽を流すムードたっぷりな夜番組だ。この日も、デイブの番組にしばしばリクエストをくれる謎の女性から「ミスティをかけて」と頼まれる。

仕事を終えたデイブは、行きつけのバーで出会った美女イブリンと一夜を共にする。番組にミスティをリクエストしてくる声の主であるイブリンと「一夜だけ」の気楽な遊びを楽しみ、二人の関係は終わった……つもりだった。

翌日、イブリンはデイブの家に何食わぬ顔をして現れる。それ以降、イブリンは異常な執着心を見せ、行動は次第に常軌を逸していく。

時同じくして、行方をくらましていたデイブの元恋人・トビーが街に戻ってきた。トビーとの復縁を望むデイブを、イブリンは物陰からじっと見つめる。

デイブ愛しさにエスカレートするイブリンの狂気は、やがて恐ろしい事件を引き起こすーー。

映画『恐怖のメロディ』ネタバレあり感想

「狂気の女ストーカー」を確立した元祖ストーカー映画

行きずりの相手が、やばい女だったーー。映画の中では珍しくない、むしろよくある話だが、この『恐怖のメロディ』が元祖ストーカー映画と呼ばれている。

1970年代当時、まだ「ストーカー」という考えがはっきり確立していなかった。だが、確立していなかっただけで、ストーカー自体は「なんかやばい人」として認識され、コミュニティの中で遠巻きにされていただろう。

そんな空気感を社会の中から掬い上げ、偶像として固めたのが本作だ。

半世紀も経っているのに、ストーカー像が現代と少しもズレていないという、イーストウッドの嗅覚の鋭さ。これが監督デビュー作とは、彼に世界はどう見えているのだろうと心配になるほどだ。

デイブに抱く同情と冷笑が混じった気持ちや、妄言が止まらないイブリンへの忌避感に、覚えがないだろうか。現実世界で、失敗談を語る友人に抱く気持ちとまるで同じで、デイブとイブリンを見ながら自分の浅ましさにもハッとする。

イーストウッドの作品は、現実離れした完全なフィクションでも、リアリティが色濃く漂う。できれば見たくはない人間の根底に秘められた、暗い汚い感情や本質が手荒に晒されていくような感覚を覚える。

気楽な娯楽として見られる監督じゃないけれど、気づき・考え・人生の養分になる、栄養満点ハイカロリーな作品ばかりで、それはこのデビュー作も遜色ない。

強いて言うなら、アダムとイブのような森の中のラブシーン(これがまた長い)で集中が散漫していくというか、緊張感がぶった斬られるのが、減点ポイント。

僕だけが悪いわけじゃない

端正なルックスに、適度にクールな振る舞い、仕事も順調。ステップアップのための局移籍も手の届くところまできた。かっこいい車で海岸沿いを颯爽と走るデイブが、女性にモテるのは自明の理だろう。

モテるが、女関係はだらしない。それが理由でトビーはデイブから離れて行った。デイブがトビーへの愛に気づいたときにはもう遅い。探そうにもあてがない。

しかし、トビーは再びデイブの前に現れた。今度こそデイブは誠実な言葉を尽くして、トビーの愛を取り戻すのだろうと想像した矢先。

驚いてしまったのが、トビーに向けてデイブが言った女遊びの言い訳。

「僕だけが悪いわけじゃない」

えええ!? デイブの理論だと、誘ってくる女も悪ければ、いつも同居人がいて二人きりになる環境を作らないトビーも悪いらしい。

さらにその口で、「やり直せないはずがない」と続けるのだから、呆れてしまう。反省してるんだかしていないんだか、百歩譲ってここは謝罪のためのポーズでもいいのに、自分の非を認めない男と、どうして寄りを戻してもらえると思えるのだろう。

天性の女たらしという生き物、その思考回路、恐るべし。

しかし、イブリンを抱き抱えて、自分の手に負えないと諦め放心するデイブの表情は、あまりにも哀れで素晴らしかった。

狂気からこぼれ落ちる本音

怒りと困惑のあまり言葉を失うデイブの沈黙を、イブリンは言葉なくともわかると言って「デイブが自分を愛している」と解釈する。

イブリンの頭の中ではデイブとの愛の物語がどんどん出来上がっていく。イカれ具合を増すイブリンは圧倒的で、目の前のデイブの拒絶さえ物ともしないパワーが恐ろしかった。

しかし、愛の暴走列車と化したイブリンの妄言の中で、一つだけ、針に糸を通すかのごとくスッと心に入ってきた言葉がある。

「私は何なの?商売女の姿でお呼びを待つだけ?」

この言葉だけは、狂ったストーカーとしてじゃなく、報われない恋に苦しむ女としての心からの本音だったと思う。

このあと痛々しく泣き崩れたイブリンは、悲痛な思いに打ちのめされながら身を引いてきた女たちの亡霊でもあるのだろう。

映画『恐怖のメロディ』考察・解説

【考察】愛?狂気?区別のつかない二面性

イブリンのデイブへの思いは、イブリンにとっては「愛」であり、デイブからすれば「狂気」である。

デイブの、イブリンを突き放しきれず、なし崩し的に関係を持ってしまう態度も、デイブは「優しさ」のつもりかもしれないが、見る側には「だらしなさ」として映る。

このように、人には二面性があり、その性質は見る角度によって名前を変える。自分と他人とじゃ捉え方がまるで違い、どちらともはっきり区別できない曖昧なものとして作中に並べらている。

また、本作では人に限らず、モノにも表裏があることが示される。

邦題の「恐怖のメロディ」は、イブリンのリクエスト曲「ミスティ」を指す。

デイブは以前は「孤独な恋人たちに贈る歌」として紹介していたが、イブリンの狂気によってミスティは恐ろしい歌へと変貌した。

原題の「Play Misty for Me(ミスティをかけて)」も、後半では呪文のようにデイブを苦しめる。

当人は愛そのもののつもりでも、他者には呪いとなって苦痛を与えているかもしれない。あるいは、「ミスティ」のように最初は美しかったものが、あるきっかけを境に恐ろしいものに変化することもある。

イブリンのような脅威は、善の顔をして、いや当人にとっては紛れもない善としてそこかしこに存在するのだろう。

【解説】電話をかける or 待つで表されるパワーバランス

本作には、「電話」が象徴的なアイテムとして何度も登場する。また、電話によって関係性のパワーバランスが示されている。

電話をかける人の方が優位で、電話を受ける人は相手に従うことを求められる。

  • デイブのラジオ番組にリクエストの電話をかけるリスナー(イブリン)のリクエストに従い、電話を受けたデイブは曲をかける
  • デイブから電話をしたときだけ、イブリンはデイブに会える(最初はそういう約束だった)
  • トビーが復縁を決めたら電話するよう頼み、デイブは電話を待っている
  • イブリンを診察してくれた医者の友人に、今回の騒ぎを秘密にしてもらうため頭が上がらないデイブは、「電話してくれ」と医者の機嫌を取る

本来なら、特に会社や友人間では、電話をかける人の方がお願いをする立場だったり、誘いや提案をすることが多い。電話を受けた方は内容を吟味して可否を決定したり、自分の行動を決めることができる。

しかし、本作では電話をかける人は、電話を受ける人に行動を強要する(必ずしもその行動は実行されないが)

「電話」が二者間のパワーバランスを明確に区切る境界線として機能していると言えよう。

 

 

映画『恐怖のメロディ』主な登場人物・キャスト

デイブ(クリント・イーストウッド)
– KRMLの人気DJ。元恋人トビーに未練があるが、行きずりの女性と軽い気持ちで関係を持ったことで付き纏われる。

イブリン(ジェシカ・ウォルター)
– デイブのファンで、番組にちょくちょく「ミスティ」をリクエストしている。デイブと夜を過ごして以来、狂気をあらわす。

トビー・ウィリアムズ(ドナ・ミルズ)
– デイブの元恋人で、芸術家の卵。父親がローンとともに残した家に、いつも同居人を迎えて住んでいる。

マッカラム巡査部長(ジョン・ラーチ)
– 地元警察の巡査部長。イブリンが事件を起こした際に担当になった。デイブの番組リスナーでもある。

アル(ジェームズ・マクイーチン)
– デイブの同僚。デイブの前の番組を担当している。

バーテンダー(ドン・シーゲル)
– デイブ行きつけのバー「サーディンファクトリー」のバーテンダー。店に寄せられるデイブへの電話や伝言を取り次いでくれる。

映画『恐怖のメロディ』作品情報

作品情報

⚫︎ 公開年:1971年/日本 1972年
⚫︎ 製作国:アメリカ
⚫︎ 尺:102分
⚫︎ 監督:クリント・イーストウッド
⚫︎ 脚本:ジョー・ヘイムズ、ディーン・リーズナー
⚫︎ 撮影:ブルース・サーティース
⚫︎ 音楽:ディー・バートン
⚫︎ 原題:Play Misty for Me
クリント・イーストウッド監督の主な作品
  • 『許されざる者』(1992年)
  • 『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)
  • 『硫黄島からの手紙』(2006年)
  • 『ハドソン川の軌跡』(2016年)  ほか多数

予告動画

 
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