久しぶりにすごい作品を見た。見終えてから、ずっとこの映画のことを考えてしまうほど、心に跡が残っている。
『茶飲友達』はハッピーエンドでも、背中を押されるような作品でもない。
でも、幸せになりたいから能天気ハッピーな映画を見ているのだとしたら、ぜひこの映画を見てほしい。幸せになりたい人にとって、ラブコメ映画よりよほど実用性がある。
いま、映画好きな人におすすめしたい作品No.1はこの作品でファイナルアンサーです。
本記事は感想にネタバレを含みます。まだ未視聴の方はご注意ください◎
映画『茶飲友達』の評価
総合評価 4.5 / 5 点
評価コメント:長生きするつもりがあるなら、見てほしい
映画『茶飲友達』は、高齢者と若者それぞれの「孤独」を描き出す。
主人公マナは高齢者向け売春クラブ「茶飲友達」を運営し、社会的には犯罪だが、孤独を抱える人々に居場所と生き甲斐を与えていた。しかし摘発によって希望は奪われ、残ったのは救いのない現実だけ。
正しいことだけが幸せではないが、正しく生きても必ずしも幸せになれるわけではないという厳しい現実を突きつける作品だ。
本作は高齢者の性欲を笑いや悲劇にせず「当たり前のこと」として淡々と描き、年齢関係なく人間なら誰もが抱える孤独や欲望をどう受け止めるかを問いかける。
ワークショップで選抜されたキャストの演技は鋭く、作品が投げかけるメッセージはとんでもなく重い。だが、映画の真価ともいうべき部分は、孤独とどう向き合うべきかを見る側に考えさせる余白を残している点にある。
見てよかったと、必ず思えるはずだ。
- 親に長生きしてほしいと思う人
- 100歳まで生きられるならば、ぜひ生きたい!という人
- 風俗を利用したことがある人・働いたことがある人
- ミニシアター系作品が好きな人
映画『茶飲友達』が視聴できる配信サービス
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映画『茶飲友達』ネタバレなしあらすじ
妻に先立たれ、寂しい日々を過ごす男性は、「茶飲友達、募集。」という新聞の三行広告に目を留めた。早速電話をかけ、待ち合わせ場所向かうと、男性の前に現れたのは高齢女性・道子と30代女性・マナ。あの新聞の三行広告は、高齢者向け売春クラブ「茶飲友達(ティーフレンド)」が出稿した広告だった。
道子とホテルで甘いひとときを楽しんだ男性は、茶飲友達の会員になる。寂しいだけだった男性の日々に、喜びが訪れた。
茶飲友達は、マナのほか数名の若者たちで運営されている。在籍する高齢女性(ティーガールズ)たちは各々、介護疲れやギャンブル依存など、事情は違えど退屈や孤独を抱えていた。マナはそんな彼女たちを「ファミリー」と呼び、オーナーと従業員の垣根を超え、擬似家族とも言える関係を育む。
ある日、マナはスーパーで万引きをしていた女性・松子に声をかけ、ティーガールズに誘う。一度は断れらるが、後日、自殺寸前の松子から電話があり、マナの説得で松子は茶飲友達に加わることになった。
茶飲友達で働きはじめた松子は、表情も見違えるほど明るくなり、瞬く間に人気キャストになる。実母と不仲のマナは、松子を母のように慕い、松子もまた、マナを実の娘のように可愛がる。
着々と会員数を増やし、運営も順調な茶飲友達だったが、ある出来事をきっかけに瓦解することになる。
映画『茶飲友達』ネタバレあり感想
高齢者と若者、それぞれの孤独
登場人物たちは、高齢者も若者もみなそれぞれ「孤独」を抱えている。言葉にすると同じ「孤独」という単語でも、高齢者と若者とではその根源が違ってくる。
高齢者たちの孤独は、妻や夫を見送ったあと自分の周囲に人がいない、独りでいることの寂しさからくる。文字通りの「孤独」。寂しさ、退屈、空虚に満ちた日々に一人でじっと耐えながら、食べて寝て起きて、いつか来る迎えを待つ日々。
一方で若者たちは、周囲に人がいても孤独だ。若者たちの孤独は、自分を社会に共通する「こうあるべき」という認識の中に当てはめられないことに対する不安でできている。
違法と知りながら売春クラブを運営し、死の淵にいる母親とも不仲で弟に介護を任せきりのマナは、社会の「いい娘」の定義から大きく外れている。「正しいことだけが幸せじゃない」と言いながら、マナ自身、「正しく生きられない」ことで苦しんでいるのだ。
金もなく頼れる人もいないのにシングルマザーになろうとする千佳も、夢もなく車中暮らしの父親をどうにもできない良樹も、堂々と生きる自分の姿を社会の中に見いだせず、不安に悶えている。
ラストで、千佳は金を得て、良樹は夢を得た。彼らはもう孤独から這い上がっていけるはずだ。
若者のころ正しく生きていた人でも、老後になって孤独にならないとは限らない。松子も渡辺哲演じる客も、結婚したころは、数十年後に孤独で苦しむ日々が待っているとは思わなかっただろう。
正しいことだけが幸せじゃない。
でも、「正しく生きれば幸せになれるとも限らない」という辛い現実も、老いしょぼくれた背中は語る。
人生100年の時代がきても、孤独を抱えて数十年生きる方法を、国は教えてはくれない。「快い老後を用意できなかったのならそれは生き方が間違っていたのだ」と責められる気さえする。
哲学者・國分 功一郎のベストセラー『暇と退屈の倫理学』によると、人は何もすることがない状態に耐えられないという。80歳になっても楽しくできることを、今のうちから用意しておくべきなのかもしれない。
事実と実情の差
茶飲友達が、高齢者女性に売春を斡旋していた。客から支払われた金額の中から店の取り分を抜いていた。これは事実だ。マナがしていたことは紛れもない犯罪で、社会のルール上では悪いことだ。
だが、事実と実情はまるで違っている。
マナはティーガールズを「金のために利用」する気持ちはなく、彼女たちに居場所を提供したいために茶飲友達を続けていた。
そして、ティーガールズも客も、この場所で孤独を埋め、生き甲斐を見出していた。茶飲友達は人を不幸に陥れるどころか、圧倒的に幸せを産んでいた。
茶飲友達摘発は正しいことのはずなのに、多くの人の希望が奪われたことが、やりきれない。
誰か結末で笑顔を浮かべてくれていたらまだ救われたのに、最後まで容赦ない現実的な終わり方だった。
ほかの作品でも、高齢者の性欲が描かれることはある。いい歳して衰えを知らない愛すべきエロ親父としてだったり、熟年不倫だったり、歪んだ性嗜好を持つ好き者だったり、高齢者の性欲は多くの場合特別扱いされている。
本作は、高齢者に性欲があることを、笑いものにするでも、悲劇にするでもなく、当たり前のこととして淡々と語るのが潔い。
何も性交渉だけが性欲の対象ではない。異性との会話に緊張したり、ちょっと過去を盛って話してよく見せたい気持ちだって性欲だ。そんなもの、あって当然だ。
性欲を満たすことで、日々に楽しみと活力が得られるなら、風俗業界に身を置く女性たちは決して貶められるべきではないと思う。
でも、性風俗の礼賛になってもいけない。性を仕事にすることで、苦しみ、心をすり減らす人がいるのは確かだ。
目的が一致しない他人同士は家族になれない
是枝裕和監督『万引き家族』でも、他人同士で構成された擬似家族は崩壊してしまった。
血のつながらない者同士が、友人を越えて、家族ほど近い関係を保つには、目的が一致していることが重要だ。
松子がトラブルを起こしたと分かってから、茶飲友達はほんの数分で瓦解した。
マナの目的は、孤独を抱える高齢者たちの居場所を作り、正しい生き方じゃなくとも幸せになれると証明すること。
ティーガールズの目的は、孤独や退屈を埋めること、金を稼ぐこと。
マナ以外の運営メンバーの目的は、金を稼ぐこと。
一見彼らはいい関係を築けているように見えたが、どうなってもいい他人だから、今この時の寂しさを埋めるためだけの気楽な関係性でいられたのだと思う。お互いの未来の責任を負う必要はないのだから。
その点、登場人物の目的がおよそ一致しているスポ根作品やディザスター映画などは、他人同士が深い絆で結ばれていく様が心強く、安心できるのである。
映画『茶飲友達』考察・解説
【考察】作中で繰り返される「正しさ」を具体的に考える
マナは「正しい」という言葉を何度も使って、自分たちをそこからこぼれ落ちた者と位置付けている。
「正しい」とはどのような生き方を指すか。それは、マナたちの状況をひっくり返すことで具体的に挙げることができる。
- 法律や倫理を守り、他人に迷惑をかけない
- まっとうな仕事について親孝行をする
- 衣食住を自分で賄う自立した生活
- 適切な年齢で結婚し、パートナーと協力して子供を育てる
また、茶飲友達の客やティーガールズ高齢者たちも、マナから見ると社会のルールからこぼれ落ちた人だ。
- パートナーと長生きし子供や孫に囲まれた老後
- 貯金も豊かにあり、時折趣味や旅行を楽しみながら穏やかに暮らす
この生き方ができない人は、本当に幸せになれないのだろうか。
マナや母親が語る、これらの正しさの先にある「幸せ」は、社会すなわち他人からの評価である。
側から見れば褒められない生き方でも、本人は楽しさや充実を感じるなら、それは紛れもなく、幸せだ。
一人で長く過ごせば、孤独を感じることは避けられないだろう。しかし、孤独だから不幸ということにはならない。
高齢者たちの孤独を間違った生き方の結果と捉えるマナの心の隅には、「守ってあげている」という言葉からもわかるように、見下し蔑む気持ちが見出せる。たとえ、本人の自覚がなくとも。
【考察】逮捕されたマナに母親が面会に来た理由
ラストで、母親がマナに面会に来た理由を考察したい。
マナの母親は、「正しいことだけが幸せ」を唱え、娘にも正しい生き方を求め厳しく当たる人だった。
潔癖なほど、正しさに従って生きる母親は、「母親としてここで娘を見捨てるのは正しくない」と思ったのだろう。
母が言った「家族だから」は、「誰もが見捨てても、家族だけはそばにいてあげるのが当然だ」という意味と解釈できる。
また、正しさが行動基準の母親の脳裏には、「娘を許して不和を解消しなければ」との思いも当然あったはずだ。
自分に残された時間は少なく、美学も意地もあってなかなかマナを許せなかったが、マナ逮捕により、もう会える機会は限られる。悔いを残して死ぬのは正しくない。
その思いに突き動かされ、母は娘と向き合うことに決めたのだと思う。
【考察】松子の万引きが再発したのはなぜか?
松子はティーガールズになって以降、明るさを取り戻したが、ほどなくしてまた万引きをするようになる。そして、再び万引きをしていることを、マナには隠している。
松子の万引き癖が再発した理由は、「正しさとのギャップ」と言い表すことができるだろう。
以前は、松子にとって万引きは、存在意義を確かめるための行為だった。だが茶飲友達で、マナたちと交流したり客から求められることで、松子は存在価値が得られた。
しかし、人を救っていると言えば崇高だが、やっていることは売春である。松子の中には、充実感と同時に、「正しくない」という思いも芽生えていく。
松子が昔やっていた物品寄付のボランティアを再び始めたのは、間違いなく正しいことをして、売春をしている自分と、清いことをよしとする社会とのギャップを埋めるためでもあったろう。
ティーガールズ・若葉として人気が出ればでるほど、本来の松子としてありたい姿はかけ離れていってしまう。物理的に孤立から逃れはしたが、孤独は別の形で松子を襲ってくる。
松子はそれらから逃れるため、再び万引きをして、若葉ではない松子自身の存在価値を確かめたのだ。
映画『茶飲友達』主な登場人物・キャスト
佐々木マナ(岡本玲)
– 「茶飲友達」経営者。元風俗嬢。キャストやスタッフを「ファミリー」と呼び、彼らに居場所を作ろうとしている。
松子(磯西真喜)
– スーパーで万引きしているところをマナに止められ、茶飲友達に加入する。マナとは母娘のように親しくなる。
千佳(海沼未羽)
– 茶飲友達スタッフ。既婚者との子を妊娠していることが発覚し、シングルマザーになる決意をする。
鷹木(中村求一郎)
– 茶飲友達スタッフ。ティーガールズの送迎やスタッフのケアなど幅広い業務をこなし、マナにも頼られている。
内藤良樹(鈴木武)
– 茶飲友達スタッフ。実家はパン屋だったが閉店。家を出て車上生活をしている父親に、定期的に食料などを届けている。
時岡茂雄(渡辺哲)
– 妻を亡くし、独居で寂しさを募らせていたが、新聞の「茶飲友達、募集」の三行広告を見て、茶飲友達を利用し始める。
ティーガールズ
道子(瀧マキ)
– 茶飲友達の人気No.1キャスト。客に厳しいことを言われても超然と受け流せる包容力を持つ。
カヨ(岬ミレホ)
– 茶飲友達の人気No.2キャスト。ギャンブル依存症で、給料を日払いでもらってはパチンコに注ぎ込んでしまう。
映画『茶飲友達』作品情報
作品情報
⚫︎ 製作国:日本
⚫︎ 尺:135分
⚫︎ 監督:外山文治
⚫︎ 脚本:外山文治
⚫︎ 撮影:野口健司
⚫︎ 英題:Tea Friends
- 『燦燦-さんさん-』(2013年)
- 『ソワレ』(2020年)
受賞・ノミネート
2024年 第37回 高崎映画祭
- 受賞:最優秀監督賞{外山文治監督)、最優秀主演俳優賞(岡本玲)
2023年 第17回 KINOTAYO現代日本映画祭
- 受賞:グランプリ
予告動画
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