【肯定感爆上げ】映画『プリシラ』ネタバレ感想&考察解説:ドラァグクイーンのぶっとび砂漠バス旅!

先日、ミュージカル『キンキーブーツ』を観劇し、ドラァグクイーンのローラの美しさとたくましさに元気をもらいました!

帰り道、目に見えるものが輝いていて、何をしても楽しく、ドラァグクイーンの人生モチベアップ効果のすごさを実感。

観劇から時間が経ち、おかわりクイーンしたくなったのでクイーンたちの砂漠ロードムービー『プリシラ』を鑑賞しました。

90年代の女性シンガー洋楽が次々流れ、毒々しいぶっとび衣装も楽しくて、ショーを見ている気分!

彼女たちと一緒に楽あり苦ありの旅を終えたとき、気持ちがポジティブになっていること間違いなしの肯定感爆上げ映画です。

本記事は感想考察にネタバレを含みます。まだ未視聴の方はご注意ください◎

映画『プリシラ』(1994年)の評価

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総合評価  4.0 / 5

評価コメント:ドラァグクイーン×洋楽×雄大な砂漠=最強ポジティブ映画!

この『プリシラ』の世界的ヒットを機に、ドラァグクイーンカルチャーが一般的に広く受け入れられるようになりました。いわば、世界を変えた作品!

3人のドラァグクイーンが、それぞれの悩みや旅先でぶつけられる偏見に苦しみながらも、自分の生き方に誇りを持って胸を張る様子にとても勇気をもらえます。

どこに行っても好奇の目で見られるし、客の反応も微妙。でも、彼女たちはステージパフォーマンスを心から愛し、自分の望みに正直に生きようとします。

「いくら私たちが悩んだところで偏見は解決できないんだから、悩みまるごと受け入れてハッピーに生きる!」という自己肯定の精神が、彼女たちとの旅を通して見る側の心にも沸々と育っていくのがわかるはず。

アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞した毒々しくてド派手な衣装と、元気が出るノリノリ洋楽ポップスも楽しく、疲れた金曜日の夜とかにお酒を片手に見たい作品です。

  • 舞台やミュージカルが好きな人
  • 力強いサウンドや歌詞の洋楽を聞くとテンション上がる人
  • ポジティブで明るいオネエやゲイのSNSや動画に元気をもらっている人
  • 世界の絶景動画とかつい見ちゃう人
  • FRUiTS、TUNE、装苑、海外コレクション記事を愛読していたファッション愛好家

 

映画『プリシラ』が視聴できる配信サービス

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現在、映画『プリシラ』(1994年公開)はU-NEXTでのみ配信中です!

 

映画『プリシラ』ネタバレなしあらすじ

シドニーで活動するドラァグクイーンのミッチ(ヒューゴ・ウィーヴィング)は、アリススプリングスのホテルでのショー依頼を受け、二人のドラァグクイーン仲間とバス「プリシラ号」で約3,000キロのドライブ旅に出る。

旅を共にするのは、若い恋人を亡くして塞ぎ込んでいたバーナデット(テレンス・スタンプ)と、「キングス・キャニオンにドレス姿で立つ」という夢を持つフェリシア(ガイ・ピアース)。

歌って騒いで順調に始まった旅だったが、行く先々で好奇の視線や偏見を浴びせられ、さらには砂漠での遭難やバス故障などトラブルが連発。

長いドライブや旅先での出会いを通して、ゲイへの差別や自分の望む生き方と向き合っていく。

映画『プリシラ』ネタバレあり感想

ドラァグクイーンで元気が出る理由!

『プリシラ』といい『キンキーブーツ』といい、ドラァグクイーンは元気とパワーをくれます。

なぜなら、彼女たちが多くの異性愛者より大変な苦労をしているにもかかわらず、誇りを持って美と芸術を追求しているから

彼女たちの他者の視線を跳ね返して我が道を行く生き様が、モデルや女優のような大多数受けする美しさを獲得するべく美容や意識改革に躍起になる女子のガチガチな美意識を、「完璧じゃなくてもいいじゃなーい!」とほぐしてくれます。

自分より不幸な人間を見て、自分がまだマシだと安心する心理なんかじゃ全然なくて。彼女たちの気高さと強さがかっこいいと思うし、自分もそう生きたいと刺激されるのです。

ただ生きていて暴言を浴びせられたり蔑視されることのない人間が、代わり映えしない日々を「仕事疲れた」「人生辛い」なんて言葉に置き換えて、不幸ぶってなんていられません!

心にドラァグクイーンを住まわせて、自分の選択に誇りを持っていきましょう〜。

楽に生きるコツは受け入れること、受け流すこと

本作では、三人がひたむきにステージに立ち続けたから、観客が少しずつ増えて最後には大歓声で拍手喝采…なんてことになったりはしません。途中のパブでも、アリススプリングスのステージでも観客は白けたままでした。

ラストのABBAステージが盛況だったのは、シドニーは田舎に比べてドラァグクイーン文化が認知されているのと、ABBAの人気によるのもあると思います。

でも彼女たちは、自分が差別偏見を受ける存在だと理解して、嘲笑的な視線は当然のものとして受け入れています。相手に理解を強要しないけれど、わかってもらえない相手に卑屈になりもしません。

あまりに暴力的な言葉や態度には腹も立てるし傷つくけれど、それを糧にしてまた立ち上がる姿のなんとたくましいこと!

たくさんの人がすれ違い様に浴びせてくる侮蔑の視線よりも、ステージで得られる充実感と、ほんの一握りの理解者がくれる優しさと愛情のほうが、彼女たちにとって重要です。

私は私、他人は他人。自分が他人からどう見えるかを受け入れたうえで、自分をハッピーにしてくれること以外は受け流す。これが苦悩を手放して気楽に生きるコツなのだと思います。これが上手くなることを、大人になるって言うんだろうな。

マリオン、ベンジー、ボブの先進的価値観

ティックの悩みは「妻子がいること」でも「妻子に拒絶されている」でもなくて、「息子にバイと職業バレするのが不安」なためにバス旅中うじうじしていたのでした。ホテルに着いてから、笑顔が溢れて止まらないティック。めっちゃ家族大好きやん。

おそらく誰もが、ティックがゲイなために追い出された夫だと思っていただろうから、この家族の関係は意外であり、嬉しい驚きでした!

マリオンのことを「いい女でしょ」と言い切るティックも、ティックの性的指向を肯定して子に隠さないマリオンも、両親を尊重し理解を示すベンジーも、干渉しすぎないのに思いやりがあって、なんて素敵な家族。

バーナデットを女性として扱い花束を差し出す紳士のボブも、まだシドニーやメルボルン以外ではドラァグクイーンは笑われる時代だったのにもかかわらず、先進的な考えを持っていました。

本作はドラァグクイーンの葛藤や内面の強さを世界に広めて、ドラァグカルチャー受容のきっかけを作りました。が、それと同時に、性的マイノリティを受け入れる側の心のあり方も提示したと思います。

ツインテールのバーナデットが一番可愛い

三人の中なら断然バーナデット推しです。上品で美意識高くて、知的で達観した立居振る舞い。

おそらくまだ同性愛やトランスジェンダーがタブー視される時代からドラァグクイーンとしてステージに立ち、国中を巡業してたくさんの辛い経験をしてきただろうバーナデット。

普段はうるさいと邪険にしていても、フェリシアが傷ついたときは抱きしめてあげる、頼れる姐さんで先輩なんですよね。

最後、不安に怯えながらも愛に生きる選択をするのも素敵で、誰よりも情熱的なレディ・バーナデットでした。

本作の衣装はどれも手作り感満載の盛り盛りゴージャスで、とにかく派手でちょっと妖怪みもあり、見ていて飽きないほど楽しかったけれど、私はボブの街のパブでのステージで着ていた、ミニチュニック×アーム&レッグカバーのふりふり衣装が特に好きです。奇抜度は控えめでアイドル衣装っぽいかも。

本作での私的ハイライトは、ツインテールのバーナデット!

映画『プリシラ』考察・解説|オーストラリアはドラァグ聖地

【考察】ティック(ミッチ)とマリオンはなぜ結婚した?

ティック(ミッチ)には妻もいて、さらに息子・ベンジーもいました。ティックが「妻がいる」と明かしたとき他の二人は大騒ぎだったことから、ゲイが女性と結婚することは相当珍しいことだとわかります。(のちにティックはバイセクシャルであることがわかります。)

そこで、作中では語られなかったティックとマリオンが結婚した理由について考えてみました。

おそらく、「子どもを残すため」ではないかと想像します。

ティックはバイセクシャル、マリオンはレズビアン(またはバイセクシャル)です。同性のパートナーを選ぶと、血の繋がった子どもを残すことは難しい。そこで、お互い人としてリスペクトしているティックとマリオンは、子どもを残すパートナーとして結婚したのだと思います。

以前、蜷川実花監督のNetflixドラマ「FOLLOWERS」で、バイセクシャルの男性の「自分の遺伝子は残したい」のセリフに、私たちは人間であり、命を繋ぐ動物でもあるのだとハッとしました。

ベンジーを授かり目的を果たした二人ですが、ベンジーによって「両親」という新たな関係が生まれました。ティックとマリオンには、離婚の選択肢など元からなく、これからもお互いの性的指向を尊重し合いながら、ほどよい距離感で支え合っていくことでしょう。

【考察】バーナデットとボブは恋愛関係になったのか?

4週間のショーを終えて、バーナデットはホテルで働くことになったボブとともにホテルに残ることを選びます。気になるのは、バーナデットとボブの関係ってどうなってんの…?ですよね。

ここからは考察になりますが、バーナデットとボブは付き合っていないけど友情を超えた気持ちはある」と思います。

バーナデットはボブと会った日の夕食で、バーナデットが所属していたル・ガールズのショーを褒められてから、ボブを意識していることが窺えます。

一方ボブは、クーバーピディでフェリシアのために、バーナデットが怒れる男の大事なところに膝蹴りをお見舞いした夜、朝まで酒を汲み交わしてから態度が変わりました。ボブはホテルでのショー前に、バーナデットにだけバラのブーケを贈ります。

ほかの二人にはなかったのと、ショー後にわざわざバーナデットの部屋までブーケを届けに行き、ドア越しに見つめ合う二人の視線。単なる友情を超えた気持ちを抱いていることが仄めかされていると言えるでしょう。

かといって、出発日までに二人は晴れて結ばれたわけでもなく、公にキスやハグを交わしたりする間柄ではない様子でした。

バーナデットは、地方は偏見が強く「オカマには都会しかない」と言っていました。実際、ホテルでのショーでもお客さんの反応は薄かった。それでもバーナデットは時間をゆっくりかけてボブとの愛を掴むため、ホテルに残る決断をしました。

【解説】1990年代前半オーストラリアでのドラァグクイーンへの偏見・差別

本作の舞台となっている1990年代前半のオーストラリアでは、シドニーのような大都市と地方都市との間に、LGBTQ+やドラァグクイーンに対する価値観の大きなギャップがありました。

ドラァグクイーン文化は都市部のナイトクラブやゲイコミュニティなど一部では絶大な人気を誇っていましたが、社会全体ではまだ偏見や差別が根強く残っていました。特に内陸部など地方では保守的な価値観を持つ人がほとんどで、同性愛や女装に対する偏見や恐れがありました。

ドラァグクイーンとして地方を旅することは、未知の土地で差別や暴力にさらされるリスクを伴っていました。三人も最初に訪れた街で、不思議なものを見る目で見られ、バスに屈辱的な落書きをされました。

ドラァグクイーンにとって巡業旅は不安がある一方で、そこで出会う人々との交流が、偏見を和らげ、文化を広めるきっかけにもなります。

今やオーストラリアではドラァグクイーン文化はポップカルチャーとして認知されています。シドニーでは毎年、世界最大級のLGBTQ+の祭典「シドニー・マルディグラ」が開催され、「ドラァグの聖地」と呼ばれています。

『プリシラ』なくては、ドラァグ文化がここまで急速に発展することはなかったかもしれませんね。

【解説】シドニーからアリススプリングスまでの道のり

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ティックたちが住むシドニーからアリススプリングスまでは約2,800kmあります!

ノンストップで行っても車で約30時間。ティックたちは途中寄り道や遭難をしながら、3週間かけての砂漠ドライブ旅でした。

ちなみに、みんなでピクニックに行ったキングス・キャニオンは、アリススプリングスから約330km。

ちょっと近場でピクニック〜♪なんて次元じゃなくて笑っちゃいますね。日本との距離感バグがすごい。オーストラリア大陸恐るべしです…!

映画『プリシラ』の主要登場人物・キャスト

ミッチ/ティック(ヒューゴ・ウィーヴィング)
– ティックシドニーでドラァグクイーンをしながら、化粧品販売をして生計をたてている。周囲に隠しているが妻がいる。

バーナデット(テレンス・スタンプ)
– かつてはル・ガールズのトップダンサーとして活躍。本名のラルフと呼ばれると怒る。

フェリシア(ガイ・ピアース)
– 陽気で奔放。キングス・キャニオンにドレスとヒールで立つ夢を叶えるべく旅に参加した。

ボブ(ビル・ハンター)
– 車の修理屋。あるきっかけで妻と喧嘩別れし、ミッチらの旅に同行することになる。

マリオン(サラ・チャドウィック)
– ミッチの妻。アリススプリングスのホテルオーナーをしながらベンジーを育てている。

ベンジー(マーク・ホルムズ)
– 8歳になるミッチの息子。

シンシア(ジュリア・コルテス)
– ボブの妻。元ダンサーだがあるパフォーマンスのせいでパブを出禁になっている。

映画『プリシラ』(1994年)の作品情報

作品情報

⚫︎ 公開年:1994年 / 日本 1995年
⚫︎ 製作国:オーストラリア
⚫︎ 尺:108分
⚫︎ 監督:ステファン・エリオット
⚫︎ 脚本:ステファン・エリオット
⚫︎ 撮影:ブライアン・J・ブレーニー
⚫︎ 音楽:ガイ・グロス
⚫︎ 衣装:ティム・チャペル、リジー・ガーディナー
⚫︎ 原題:The Adventures of Priscilla, Queen of the Desert

主な受賞歴

  • 1995年 第67回アカデミー賞 衣装デザイン賞
  • 1995年 英国アカデミー賞 衣装デザイン賞

予告動画

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