本が売れない時代に、全世界で1500万部を売り上げたイギリス発の大ベストセラー小説が、Netflixで映画化!
舞台は田舎町に佇む高級老人ホーム。探偵役は推理サークル「木曜殺人クラブ」の老人たち。これだけでもう惹きつけられる。
豪華キャストが揃い、ストーリーのおもしろさも世界中のミステリー愛好家の折り紙付き。はたして映画の仕上がりは…?
今回は、Netflix映画『木曜殺人クラブ』を鑑賞しての感想と解説です。
本記事は感想にネタバレを含みます。まだ未視聴の方はご注意ください◎
Netflix映画『木曜殺人クラブ』の評価
総合評価 3.4 / 5 点
超高級老人ホームを舞台に、「木曜殺人クラブ」を結成する4人の老人たちがとある事件解決に挑む、英国コージーミステリーとユーモアが絶妙に融合した魅力作だ。
仕事や育児から引退したあとの穏やかな日々に退屈する彼らが、まるでお祭りを楽しむかのごとく、やんややんやとコミカルに事件の核心に迫っていく様子が愉快。
作中の至るところに散りばめられた事件のヒントは、ミステリーとしては難易度低めだが、老人ホームという閉じられた空間から解決に至るまでの過程が本作の見どころである。
『ホーム・アローン』『ハリー・ポッター』シリーズを手がけたクリス・コロンバス監督作というだけで、もう信頼できてしまう!どちらも好きな方はぜひ。
- 『ホーム・アローン』『ハリー・ポッター』シリーズがおもしろかった人
- ミステリー、とくにアガサ・クリスティやコナン・ドイル作品が好きな人
- おばあちゃん(祖母)はどちらかといえばパワフルで強めだったという人
Netflix『木曜殺人クラブ』ネタバレなしあらすじ
高級高齢者施設「クーパーズチェイス」には、毎週木曜日に実際に起きた未解決事件を推理する「木曜殺人クラブ」なるサークルが存在する。メンバーはクラブ創設者のエリザベス、元精神科医のイブラヒム、元労働組合員のロン。
現在取り組んでいるのは50年前のアンジェラ・ヒューズ殺害事件。推理のために、元看護師のジョイスを臨時メンバーとして招き入れ、四人で楽しく議論を交わす。
クーパーズ・チェイスのオーナーの一人、トニー・カラン殺害事件が発生。共同オーナーのイアン・ヴェンサムに疑いの目が向けられる。イアンはクーパーズ・チェイスを取り壊して高級マンションを建てる計画を企てていると噂されていた。トニーの死はイアンに得というわけだ。
事件を聞きつけた木曜殺人クラブは、この事件の解明に乗り出す。女性警察官・ドナの協力も得て、クラブは徐々に真相に近づいていく。
ロンドン警視庁が血眼で追っている裏社会の大物がこの事件に絡んでいることが明らかになり、この事件の想像以上の根の深さに驚き、沸き立つ一同。
しかし、ほどなくして、最有力容疑者だったイアンが殺害される第二の事件が起きるーー。
Netflix『木曜殺人クラブ』ネタバレあり感想
舞台は老人ホームの風変わりなミステリー
仕事や子育てから離れ、高級老人ホームで老後を優雅に暮らす4人が探偵役。
この、プロの探偵でもない老人たちが、老人ホームという閉ざされた空間からどうやって事件の真相に近づくかというのが、本作のおもしろいところであり、ユニークな魅力だ。
トリックや推理云々よりも、老人たちの生き生きとした捜査活動を見せることに重点が置かれていた。
あの手この手を使って警察や周辺人物から情報を引き出し、核心に近づいていく彼らの楽しそうなこと!
クラブメンバーは、若いころは第一線で活躍したキャリアを持つ切れ物揃い。穏やかな老後、つまり暇を持て余した退屈な日々に、突然飛び込んできた殺人事件のニュースは、彼らにはこの上ないご馳走となる。やるべきことを得た!と小躍りする彼らは、若返らんばかりの活力に満ちていた。
トリックとは呼べないほど単純な真相と、時折提示される伏線にほぼ答えが書いてある難易度低めの推理は、骨太なミステリー好きには物足りないかもしれない。
しかし、老人たちのエネルギッシュでコミカルな振る舞いに思わず笑みがこぼれる、英国コージーミステリーとユーモアを掛け合わせた良作。
億越え確実な超高級老人ホーム
驚いたのが、高級高齢者施設「クーパーズ・チェイス」の豪華さ。私が知る、日本の一般的な老人ホームとはまるで違う。
元修道院を改装した施設内はホテル並みに華麗な内装で、プール、アクティビティ、高級な食事、ホスピスなどケアサービスも揃っている。
気になって調べてみたら、このような富裕層向けサービス付きレジデンスは日本にもあった。
「パークウェルステイト」や「サクラビア成城」では、入居金が当たり前のように億を超える。その上、月額25万円ほどかかるときては、老後2000万円問題どころではない。老後2億円問題を、難なく了承できる強者だけに許された黄金の城なのだ。
作中のクラブメンバーの部屋は、カスタマイズされていて、どの部屋もキャラクターの個性に合っていて素敵だった。
間取りも違っていたため部屋にはランクがあるようで、一番広いのはエリザベス夫妻の部屋。夫で作家のスティーブンと、元MI6のエリザベスの収入を合わせたら、高級施設の中でもとりわけゴージャスな部屋に住めるくらいになるということか。
ジョイスはヘッジファンドを経営する娘に、ロンは元ボクシングチャンピオンで現在はお茶の間で人気のタレントに転身した息子に、費用を出してもらっているのだろう。
メンバーの中で唯一独身のイブラヒムは、PTSD専門の精神科医だった。振る舞いや衣服に品があるイブラヒムは、元々裕福な家に生まれたのかもしれないが、高級施設に入れるだけの財産を自分で築いたのだから、どれだけエリートかがわかる。
毎日が高級ホテルの暮らし。そこに入れるだけの地位を得たことも含めて、すごい。
でも、慣れると退屈そうだなとも思う。生粋の庶民には、贅沢はたまにするくらいでちょうどいい。
Netflix『木曜殺人クラブ』考察・解説
【解説】イギリスの移民問題、ポーランド移民が多い理由
犯人・ボグダンはポーランドからの出稼ぎ労働者だった。実はイギリスには、ボグダンのようなポーランド移民が多い。
第二次世界大戦中に、ドイツとソ連に分割占領され一時的に国家消失したポーランドから、多数のポーランド人が流れてきた。ポーランドの亡命政権がイギリスで発足し、ポーランド人が移住しやすかったためだ。ポーランド人のコミュニティが多いイギリスは、現在も主な移民先となっている。
2021年にEUから離脱したイギリスは今、労働力不足に直面している。
EU離脱後、EU諸国からイギリスに入国するにはパスポートが必要になった。これにより移民を阻止することができたのだが、これまで移民労働者によって支えられていた肉体労働系や介護・医療現場は人手不足に陥ることになる。
ボビーやトニーら雇用側がボグダンにしたように、パスポートを奪ってしまえば移民労働者はイギリスを出ることができず、労働力を確保し続けられる。
これが、作中で起きたトニー殺害事件の社会背景である。
【解説】エリザベスが所属していたMI6とは
木曜殺人クラブの創設者の一人・エリザベスは、かつてイギリス国内情報機関・MI6に所属していたという経歴の持ち主。
MI6は『007』でジェームズ・ボンドが所属する組織で有名で、イギリス国外での情報収集が専門。諸外国でのスパイ活動で、国際テロや外交情報を集め、自国を有利に導く役割を担っている。
彼女の鋭い観察力や分析力、隠密行動のスキル、多彩な情報網は、この経歴から培われたものだろう。
もう一人のクラブ創設者・ペニーは元ロンドン警視庁の女性警部で、エリザベスとは現役時代に職務上で知り合い、親友になったと考えられる。
関連組織のMI5は、主にイギリス国内で国家安全保障に関わる諜報活動を通じて、テロ、スパイ、サイバー攻撃などの防止を担う組織だ。
Netflix『木曜殺人クラブ』主な登場人物・キャスト
木曜殺人クラブ
エリザベス・ベスト(ヘレン・ミレン)
– 木曜殺人クラブを親友ペニーと共に創設した。認知症の夫・スティーブンと夫婦でクーバーズ・チェイスに入居している。
ロン・リッチー(ピアース・ブロスナン)
– 元労働組合員でバツ2。元ボクシングチャンピオンの息子・ジェイソンがいる。
イブラヒム・アリフ(ベン・キングズレー)
– PTSD専門の精神科医。独身。几帳面だが穏やかで物腰柔らかな老紳士。
ジョイス・メドウクロフト(セリア・イムリー)
– 元看護師の経験を見込まれ、木曜殺人クラブに臨時メンバーとして参加。娘ジョアンナからはクラブ参加を反対されている。
地元警察
ドナ・デ・フレイタス(ナオミ・アッキー)
– ロンドン警視庁から移ってきた女性巡査。女性に交通違反やお茶汲み仕事しかさせない田舎の女性軽視に不満を抱えている。
クリス・ハドソン(ダニエル・メイズ)
– フェアヘイブン警察署の警部。トニー殺害事件を担当する。
クーパーズ・チェイス関係者
トニー・カラン(ジェフ・ベル)
– クーパーズ・チェイスのオーナー。イアンのマンション開発計画に反対し、険悪な関係にある。
イアン・ベンサム(デビッド・テナント)
– クーパーズ・チェイスの共同オーナー。クーパーズ・チェイス建物と隣接する墓地を潰し、高級マンションを建てる計画をめぐってトニーと対立。
ペニー・グレイ(スーザン・カークビー)
– エリザベスと共に木曜殺人クラブを創設。病末期のため意識不明となりホスピス棟で療養。
ジョン・グレイ(ポール・フリーマン)
– ペニーの夫で、元獣医。夫婦で入居しており、日中はホスピス棟でペニーに付き添っている。
ボグダン・ヤンコフスキー(ヘンリー・ロイド=ヒューズ)
– ポーランドからの出稼ぎ労働者。イアンから高級マンション建築計画の建築担当を任される。
その他
ボビー・タナー(リチャード・E・グラント)
– ロンドン警視庁が追っている裏社会の大物だが、長らく所在不明となっている。
ジェイソン・リッチー(トム・エリス )
– ロンの息子で元ボクシングチャンピオン。現在はTVタレントとしてお茶の間で大人気。
ジョアンナ・メドークロフト(イングリッド・オリヴァー )
– ヘッジファンドを経営する、ジョイスの娘。ジョイスがクーパーズ・チェイスで暮らすことを心配している。
Netflix『木曜殺人クラブ』の作品情報
作品情報
⚫︎ 製作国:アメリカ
⚫︎ 尺:118分
⚫︎ 原作:リチャード・オスマン『木曜殺人クラブ』(早川書房刊)
⚫︎ 監督:クリス・コロンバス
⚫︎ 脚本:ケイティ・ブランド、スザンヌ・ヒースコート
⚫︎ 撮影:ドン・バージェス
⚫︎ 音楽:トーマス・ニューマン
⚫︎ 原題:The Thursday Murder Club
- 『ホーム・アローン』(1990年)、『ホーム・アローン2』(1992年)
- 『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001年)、ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002年)
予告動画
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