『じゃあ、あんたが作ってみろよ』に続き、またしても竹内涼真です。
Netflixで2025年12月に公開された『10DANCE』は、競技ダンスという極限まで研ぎ澄まされた世界を舞台に、日本トップクラスのダンサー二人が向き合う関係性を描いた作品だ。
互いに正反対でありながら、技術と覚悟でのみ通じ合う二人の関係は、単なるライバルやパートナーという言葉では言い表せない。
本作はBL原作を持ちながらも、恋愛感情より「プロ同士が拮抗する関係性」に重きを置いている。その制作意図がもたらした魅力と違和感を含め、物語の流れを追いながら、ネトフリ版『10DANCE』が描こうとしたものを読み解いていく。
本記事は感想にネタバレを含みます。まだ未視聴の方はご注意ください◎
Netflix『10DANCE』の評価

総合評価 3.3 / 5 点
評価コメント:肝心なところを描かないもどかしさ
Netflix映画『10DANCE』は、競技ダンス界のトップに立つ二人のストイックな関係性を描く一方で、物語の核心を削りすぎた脚本が解釈の難しさを生んでいる。
肝心の「10DANCE」大会への挑戦や八百長問題、同性同士の恋愛感情に至る葛藤が十分に描かれず、初見の観客には置いてけぼり感が残る。
一方で、国内トップダンサー同士だからこそのプロ意識や、練習量に裏打ちされた説得力、虚像を用いた感情表現など、映像表現には見どころも多い。
BL要素を抑え、ライバルとして拮抗する“やおい”的関係性を前面に出した本作は、芸術を生業にするプロの知られざる世界を描くスポ根的作品として魅力を放つ反面、原作の魅力である繊細な感情の揺れ動きが不足している点が惜しまれる。
キャラの感情描写が弱いものの、主演二人の立ち姿からも滲む努力の跡を高く評価して、キャラクターは評価4!
- 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』勝男が好きすぎる人
- 社交ダンス、バレエ経験者
- ウリナリ芸能人社交ダンス部を覚えている人
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Netflix『10DANCE』ネタバレなしあらすじ
主人公は競技ダンスで活躍する二人のプロダンサー。ラテン部門日本チャンピオン鈴木信也(以下、信也)と、スタンダード部門日本チャンピオン&世界2位の杉木信也(以下、杉木)は、以前からお互いを意識し合っていた。
ある大会終わり、杉木は信也に「10DANCE」への出場を持ちかける。10DANCEとは、ラテン5種・スタンダード5種、計10種40曲のダンスを一日で競う、過酷な大会である。最初は渋っていた信也だが、杉木の挑発を受けて出場を決意。大会へ向けて、互いにコーチングすることになった。
完璧なステップに裏打ちされたエレガントな動きが武器の杉木に対して、ラティーノの血を持つ信也のダンスは情熱的で官能的。性格もダンス観も噛み合わない二人だが、そこは競技ダンスという厳しい世界に身を置くプロ同士。ときに苛立ちを抑え込みながら、練習に打ち込む日々が続く。
勝利に向けて練習を続けるうちに、お互いが抱えるチャンピオンゆえの孤独を知り、身体の動きだけじゃなく心も通じ合わせていく。ダンスを通して築かれていく信頼は、やがて単なるパートナーシップを超え、彼らの心に情熱の火を灯す。
杉木の世界大会に同行した信也は、杉木が世界で受けている扱いを目の当たりにし、競技ダンス界の現実を知る。そのことで杉木と信也は決裂、10DANCEのための練習も打ち切りになってしまうーー。
Netflix『10DANCE』ネタバレあり感想
核心を削りすぎた脚本で解釈に困る
多分、みんな思ったのではないでしょうか。「10DANCE出場しないんかい!」
ラストにデモンストレーションで二人で10種類のダンスを踊ったことでタイトルを回収したけれど、10DANCE大会はおろか、途中で練習も打ち切りになってしまったことにもモヤモヤが残る。
そもそも、原作はまだ10DANCE出場まで至っていない。二人は思いがけない恋に葛藤し、くっついたり離れたりしながら練習を続けている最中なのだ。
ネトフリ映画として公開された本作も、続編を意識してのこの脚本なのだろう。が、ネトフリで初見の人はおいてけぼりを食らうのではないかと心配になるほど、原作からあらゆる肝心な部分が削ぎ落とされていた点が残念に思えた。
ライバルが切磋琢磨するスポ根テイストで進んでいたところ、唐突なキスでBL展開に持ち込む力技には困惑してしまった。
ダンス業界の八百長やパワーゲームについても終盤に雑誌記者がさら〜っと言及する程度にしか触れられない。序盤で信也が杉木に言った「万年2位な理由知ってるよ」のセリフは、原作では八百長のせいだと続いている。ネトフリ版の文脈だと、杉木のダンスには愛がないからとしか解釈しようがない。
杉木の「観客をブーイングさせるだけの〜」も、本来は「観客に八百長を覆させるだけの感動を与えるダンスができていない」という意味でのセリフだが、ネトフリ版ではその意図が伝わりにくいように思う。
なぜ信也が世界大会挑戦権を持ちながら、国内に留まっているのかも明かされないし、ラストで房子が記憶から消すほどトラウマだった黒いドレスを着ている理由も、急に杉木が信也をダンスに誘った心理も推察が難しい。
描いてほしい核心が疎かにされていて、作品の解釈に困った。スケール感や世界受けを優先してBL描写を抑え、余白を残す構成にしたなら狙い通りだが、エンタメ作品・BL作品としては物足りなさを感じずにはいられない。
『国宝』ヒットに続くストイックなプロの世界
一見華やかな芸術の世界で、芸を生業にするプロたちのストイックさには圧倒される。『国宝』の主人公二人も、スポーツ界ではあるが大谷翔平も、その尋常じゃない努力量にはただただ頭が下がる。
本作の主人公二人は、競技ダンスで各部門日本チャンピオン。たとえ相手の指導が気に入らなくても口答えせず受け入れる姿勢には、プロ意識の高さが感じられた。
正反対のライバル二人が並んだら、そこには喧嘩や反抗が生まれるのが常である。だが、国内トップダンサーと同士ともなれば、お互いの技術には信頼があり、我流や安いプライドをぶつけることがいかに無駄かわかっている。
そして圧倒的な練習量こそが、彼らがトップを走り続ける理由であり、その言動すべてに揺るぎない説得力を与えている。
酒やタバコの描写も、自己管理ができるプロとして、一人の人間としてむしろリアリティがあった。
スポ根作品にありがちな、主人公の常人的な未熟さにうんざりすることはなく、トップに立つ者にしか見えない景色を徹底的に追求できる。凡人には知り得ない領域に踏み込むからこそ、「プロの厳しい世界」を描く作品は、非日常的な一種のファンタジーとして眩しい輝きを放っている。
主演二人も、多忙な中相当に練習したのだろう。竹内涼真なんて、腰振りすぎてくびれてしまっている。バッキバキの肩、胸ときて意外なほどスリムな腹部は脱ぐとアンバランスだが、ボリュームスリーブなトップスやフレアなパンツを纏ったシルエットはとても美しかった。
拮抗する二人の”やおい”な関係
原作はBL作品に分類されるが、ネトフリ版ではBL描写はかなり抑えられていた。
大友監督は本作で、日本トップダンサー同士の関係性をメインに描きたかったのだと思う。正反対な二人が、互いに拮抗しながら時に手を差し伸べ助け合う。つまり”やおい”である!
「やおい」はBLに対して使われる言葉だけれど、性描写を指すものにあらず。登場人物たちが恋愛関係にあろうとなかろうとライバルだろうと敵だろうと、並行しながらたまに寄り添うような関係を指している(と私は思っている)。
確かにネトフリ版はライバルダンサーとしての二人の関係性が、原作よりも魅力的に描かれている。特に信也のキャラクターは、原作だと楽天的で茶目っ気があるのに比べ、ネトフリ版だとよりクールでワイルドになっている。
表情ひとつ変えず、ジョークも言わず、ひらすらダンスに取り組む姿は、BLのキャラクターより、スポ根作品のキャラクターとして魅力的に映る。キスで顔を赤らめたり、寒空の下を杉木に会うために走ったりするところなど想像できない。
信也と杉木は、友人であり、憧れであり、理解者であり、ライバルでもあり、恋愛感情もあり、魂が結びつくツインレイでもあり、名前の付かない関係にいる。
だが、BL作品を元にする以上、同性同士が恋愛感情を自覚するまでの葛藤や抵抗、心の動きをもっと深掘りしてほしかった。ダンサー同士の高次な関係性を作品にしたいけれど、原作がBLだから申し訳程度にBL描写を入れておいたような、そんな印象が残った。
Netflix『10DANCE』考察・解説
【考察】杉木が信也から離れていった理由
イギリス・ブラックプールで行われる「ブラックプールダンスフェスティバル」で、杉木と世界1位ジュリオ&リアナペアの過去、大会側がそれを知っていて八百長を仕組んでいると知った信也。杉木に「それでいいのか」と怒りを滲ませる信也を、杉木は振り払い、共同練習も打ち切り離れていった。
この時、なぜ杉木が信也から離れることを選んだか考えてみたい。
杉木は、自分が世界大会で見せ物にされていることを知りながら、いつか実力で世界一になると切望している。
杉木のダンスの持ち味は、完璧なベーシックと、独占欲・支配欲・優越感が滲む強引かつ優しいリードだ。
だが、このまま信也との関係で心が乱れては、自分の強みを100%ダンスに注ぐことができなくなるという、恐れが「このまま越えたら こっちが壊される」のセリフに見出せる。
世界1位になるには、八百長をひっくり返すほど傑出したダンスを踊らなければいけない。杉木が信也から離れたのは、「ジュリオや信也を押し除けて世界1位を掴む」との決意表明なのだ。
人生をダンスに賭ける者として杉木の気持ちが痛いほどわかる信也は、杉木を引き止めなかったのだろう。
【考察】信也&杉木がダンスを披露するラスト考察
杉木が信也から離れて依頼、袂を分かった二人。顔を合わせることはなくとも、信也は杉木の存在を強く意識し、練習に打ち込んでいた。
ラストでは、日本で行われたアジアカップにゲスト参加した杉木が、選手として参加した信也をパートナーに10種のダンスを踊った。
これはネトフリ版オリジナル展開。決裂したかに見えた二人が、急にパートナーとして息ぴったりのダンスを披露したことで、離れていてもお互い引き合う強い絆で結ばれた二人だと強固に示される。
満ち足りた表情で、触れ合った箇所を通してお互いの心を確かめるように踊り、キスと10DANCE決勝で会う約束を交わす二人の関係は、名前を付けて型に嵌めることは決してできない、自由で新しい関係と言えるだろう。
続編がありそうな含みを持たせるラストだったが、原作の進み具合と主演二人の年齢・体力を考えると、可能性は低いんじゃないかなと思う。
【解説】虚像で表現される二人の心の結びつき
お互いに憧れ、ライバル意識し、プライドも高く、本心を明かせない二人のチャンピオン。
本作では、素直になれない本体に変わって、ガラスやミラーに映った虚像によって彼らの心を表現するショットが目立った。
例えば、信也が杉木の誘いを承諾したシーンでは、金属に反射する杉木の虚像が信也に重なり、杉木が信也と組めて喜んでいることが読み取れる。
また、杉木と離れ一人でスタンダードの練習を続ける信也。信也が対面する全身ミラーには、いるはずのない杉木が映っている。これは、信也が杉木の感触を思い出しながら、存在を意識して練習していること、杉木を恋しく思っていることの表れだ。
原作でも、電車のドアガラスに映る自分たちの表情にハッとする描写がある。虚像は時に自分でも気づかない本心を映し出しているものだ。
ネトフリ版でも「虚像=無意識の感情がにじみ出る装置」として作用し、言葉にされない感情の可視化をもたらしている。
【解説】実際の大会でも同性ペアは認められている
ラストでは、信也と杉木が公の場で同性ペアでダンスを披露したことに驚いた人も多いと思うが、実は競技ダンスの世界では、近年「同性ペア」は決して珍しい存在ではない。
実際の大会でも、性別ではなく技術や表現力を重視する流れが広がりつつあり、男女の役割を固定しないペア編成も認められている。
リードとフォローは身体能力や経験によって柔軟に分担され、ダンスの可能性そのものが更新されているのだ。
本作で描かれる同性ペアも、決してフィクションを盛り上げる特例ではなく、現実の競技シーンを踏まえた描写になっている。
Netflix『10DANCE』原作との違い
原作漫画版と、ネトフリ版との主な違いをいくつか紹介します。
信也の性格|クール、ストイックさが増している
原作の信也は、杉木との練習中にもジョークを飛ばす茶目っ気があり、大人びてはいるが感情表現も豊かである。ネトフリ版の信也はストイックさが増し、ダンスへの熱意と杉木へのライバル意識がより強調されている。
原作では信也は父親とマンションに住んでいる
原作では、信也は日本人の実父と都内マンションで二人暮らしをしているが、ネトフリ版ではラティーノが集う秘密基地のようなオープンカフェバーの一角を居住スペースにしていた。
原作では、信也とアキは鈴木ダンススタジオを経営、生徒のおばちゃんたちから親しまれている。
触れられなかった信也のルーツと家族構成
ネトフリ版では、信也にラテンの血が流れていることは言及されたが、詳しくは明かされなかった。原作によると、信也の母親がキューバ人で、信也は10人兄弟の長男。妹が9人いる。
幼くして両親が離婚して以来、キューバでは母と祖母、数人の継父(みんなダンサー)によって、常にダンスと音楽がある環境で育てられた。
アキとはキューバで出会い、幼少期からペアを組んでいる。家族を養う金を稼ぐため、ダンサーになるためアキとともに日本に渡る。
Netflix『10DANCE』主な登場人物・キャスト
鈴木信也(竹内涼真)
– 競技ダンス ラテン部門日本チャンピオン。杉木のダンスを数年前に見て以来、意識するようになる。信也のダンスは杉木曰く、「全力じゃな」く乾きを癒す何かを渇望している。
杉木信也(町田啓太)
– 競技ダンス スタンダード部門日本チャンピオンで、世界選手権2位。WDL会長マーサ・ミルトンに師事し、競技ダンスの英才教育を受けた。
田嶋アキ(土居志央梨)
– 信也のパートナー。私生活がだらしない信也を口うるさく世話するが、信也とは一時期付き合っていたこともある。
矢上房子(石井杏奈)
– 杉木のパートナー。杉木とペア組みたての頃、ある大会で起きたアクシデントがショックで、その時の記憶が飛んでいる。
マーサ・ミルトン(スージー・トレイリング)
– 元世界的プロダンサーで、現WDL会長。若い才能を預かり育てており、杉木もマーサの指導を受けていた。
リアナ(ナディヤ・ビシュコワ)
– 杉木の元パートナーで、元恋人。世界一を目指すためを理由に杉木のプロポーズを断り、ジュリオにパートナーチェンジした。
ジュリオ・モレッティ(パスクアーレ・ラ・ロッカ)
– スタンダード部門世界1位のダンサー。杉木からリアナを公私共に略奪した。
ダンス雑誌編集者(浜田信也、前田旺志郎)
– 日本のダンス雑誌の編集者。信也と杉木に注目しているが、競技ダンス業界の事情にも詳しく、八百長のことも理解している。
Netflix『10DANCE』作品情報
作品情報
⚫︎ 製作国:日本
⚫︎ 尺:126分
⚫︎ 原作:井上佐藤『10DANCE』(講談社「ヤングマガジン」連載) ※ヤンマガWeb
⚫︎ 監督:大友啓史
⚫︎ 脚本:吉田智子、大友啓史
⚫︎ 撮影:佐々木達之介
⚫︎ 音楽:横山克
⚫︎ 人物デザイン監修・衣裳デザイン:柘植伊佐夫
大友啓史監督の主な作品
- 『るろうに剣心』シリーズ(2012〜2021年)
- 『3月のライオン』前/後編(2017年)
- 『億男』(2018年)
- 『レジェンド&バタフライ』(2013年)
予告動画
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