『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』は、壊れた家族がもう一度つながろうとする、不器用で愛おしい再生の物語だ。
天才一家として脚光を浴びたテネンバウム家。しかし、大人になった彼らはそれぞれの挫折と孤独を抱え、人生に行き詰まっていた。
ウェス・アンダーソン監督のビジュアル感覚とシュールさが、家族の物語を色鮮やかに浮かび上がらせる。
温かい後味がじんわり胸を満たすこの素敵な作品を、考察解説を交えてレビューしていきます。
本記事は感想にネタバレを含みます。まだ未視聴の方はご注意ください◎
映画『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』の評価

総合評価 4.3 / 5 点
評価コメント:おしゃれな人におすすめ映画聞かれたらこれ言っとけ
映画『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』は、おしゃれな映像美と意味不明なカオスが同居するシュールコメディでありながら、壊れた家族の再生を描く温かな物語だ。
テネンバウム家のメンバーはいずれも問題を抱えている。ダメ親父ロイヤルの身勝手な家族修復作戦によって抑圧されていた感情が噴出し、彼らは長年苦しんでいた感情や期待から解放される。
家族の再生とともに、彼らの人生が好転していくやさしいグラデーションのような展開に、胸があたたまる。
キュートでシニカルなファッションや映像、ツッコミなしにドタバタと繰り出されるユーモアなど、ウェス・アンダーソンらしさも炸裂!ストーリーもウェス作品の中ではわかりやすいので、万人におすすめできる作品です!
映画『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』が視聴できる配信サービス
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映画『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』ネタバレなしあらすじ
法曹界で働くロイヤル・テネンバウムは35歳で家を買い、妻エセルと三人の子どもと暮らしていた。子どもたちはいずれも大人顔負けの天才児。長男チャスはビジネスの才能を発揮し、養女マーゴは幼くして劇作家になり、次男リッチーはプロテニスプレイヤーとして活躍している。
だがロイヤルの浮気が原因で夫婦仲は冷えきり、家を追われたロイヤルはホテル暮らしを余儀なくされた。
22年後。かつて天才児だった子どもたちはそれぞれ問題を抱え、鬱屈とした日々を送っていた。エセルとロイヤルは離婚はしていないが、別居はまだ続いている。そんな中、エセルは会計士ヘンリーに求婚される。
仕事を失ったロイヤルは破産し、ホテルからも追い出される寸前だった。どうにかして家に戻ろうと企むロイヤルは、エセルに「末期ガンでもうすぐ死ぬ」と嘘をつく。
飛行機事故で妻を亡くしたチャスは息子たちを連れて実家に戻り、7年も新作劇を書けていないマーゴも夫と離れて実家に帰ってきた。惨敗試合を最後にテニス選手を引退したリッチーは船旅に出ていたが、父の病を知ってすぐに駆けつける。
久しぶりに家族揃っての生活が始まった。ロイヤルは余命6週間のうちに、家族との関係を修復したいと子どもたちに歩み寄る。しかし、リッチーもマーゴも父を疎み、反応はそっけない。
テネンバウム家、ヘンリー、マーゴの夫ラレイや不倫相手イーライも巻き込み、家族再生のため、ロイヤルはあの手この手を駆使して奮闘するーー!
映画『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』ネタバレあり感想
おしゃれな映像で世界が崩壊していくシュールさ
本作はおしゃれ映画としても、シュールコメディとしても、心温まるホームドラマとしても秀逸で、ウェス作品で一番好きな作品だ。
登場人物たちが頭のネジが外れているうえに、画面構図まるごと意味不明。おしゃれとカオスが交互に押し寄せ、最後まで目が離せない!ウェス・アンダーソン初期の作品だが、彼の才能が遺憾無く発揮されている。
おかしい点に対して誰も突っ込まず、ドタバタとギャグが横すべりして世界が崩壊していくようなウェス作品のシュールさが、私にはものすごくツボである。『ギャグマンガ日和』や『ピューと吹く!ジャガー』と同じ種類の笑い。
登場人物の服がずっと変わらないことも、アニメや漫画のように彼らのキャラクター像を強調する。マーゴのファーコートとボルドーカラーのバーキンは彼女の劇作家としての成功を、コートの中のポロワンピは内面のあどけなさとのアンバランスさを表す。
マーゴのファーコートもチャス親子の赤アディダスジャージも、リッチーのヘアバンドも、ヘンリーの蝶ネクタイもどれも可愛い。まさにファッジやPOPEYEの世界観で、本作を見ると「わかる人にはわかるおしゃれ通です〜!」な気分になれるのもいいんです…笑
家族解散が再生のカギ
ロイヤルは病気を装って家族を呼び戻し、再び一つにまとめようと企てるが、その身勝手さはかえって軋轢を深め、思惑どおりには進まない。長年の不信や怒りが噴き出し、家族は同じ屋根の下にいても心は離れたままだ。
だが最終的にロイヤルとエセルの離婚が成立し、形式的にも「家族」が解体されることで、彼らは互いの役割や期待から解放される。距離が生まれたことで本音と向き合う余白が生まれ、チャスの喪失感と過剰な危機感、マーゴの秘密を曝け出せない孤独、リッチーの叶わぬ恋による停滞した時間は少しずつほどけていく。
再結束を急いだときには見えなかったものが、解散という選択によって見えてきたのだ。皮肉にも、家族であることを一度手放したとき、彼らはようやく家族として関わり直す準備が整った。
家族ならどんなろくでなしであっても固い絆で結ばれているーー。それは神話なのかもしれない。血を分けた家族でも、合わない人とは合わない。その事実から目を逸らして、お互いに我慢をしてイライラを膨らませながら一緒に居続けることを「幸せ」とは呼べない。
「お互いの幸せのために離れる選択肢があってもいい。そして、関係の名は変化しようとも心のつながりは変わらない」と、テネンバウム家の解散は別れを前向きに考えさせてくれた。
映画『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』考察・解説
【解説】テネンバウム家メンバーがそれぞれ解放されたもの
テネンバウム家の面々は、それぞれ過去の役割や期待に縛られて生きてきた。しかし、ラストにはいずれも長年抱えてきた問題から解放され、気持ちを新たに歩み出す。
- ロイヤル:家族との不仲、自己中心主義で家族を顧みない無責任さ
- エセル:冷め切った夫婦仲
- チャス:妻の死による喪失感と過剰な危機感、恐怖心
- マーゴ:孤独、喫煙や不倫の秘密、周囲の期待に応えられない焦り
- リッチー:マーゴへの恋心、過去の栄光とバッシング
ロイヤルの帰還によって抑圧されていた感情が噴出し、衝突を経て彼らはそれぞれを苦しめていた枷を手放していく。家族という役割から一度距離を置いたことで、彼らは家族ではなく不完全な個人として向き合い、生き直す自由を手に入れたのだ。
【解説】ロイヤルの墓碑銘の意味
ロイヤルの墓碑銘には、家族を救出中に悲劇的な死を遂げた英雄のような最期が記されている。
しかし実際の死因とは一致せず、この一文は彼の誇張癖と虚構に満ちた人生を象徴している。
嘘と現実の境界が曖昧なこの墓碑銘は、ロイヤルという人物の滑稽さと愛すべき不完全さを物語り、家族が彼をどのように記憶することを望んだのか示している。
沈む軍艦=人生と考えると、ロイヤルの墓碑銘はあながち嘘ばかりではない。本作は、かっこ悪くてだらしない一人の男の小さなヒーロー譚とも言えるのかもしれない。
【解説】招待状が象徴するものとメッセージの意味
本作の冒頭で映る「家に来てください」という招待状は、ロイヤルから家族への心の呼びかけであり、家族が再び家に揃い過去と向き合うことの示唆であった。
家族がそれに応じた瞬間、止まっていた時間が再び動き出した。すっかり歪んでしまった家族の再集結は、それぞれが長年避け続けてきた関係や感情を見つめ直す契機を生む。
ロイヤルは家族と暮らす刺激でまっとうに代わり、その好転が連鎖となってほかの家族にも波及していき、ついには全員が長く抱えていた問題に蹴りをつけることができた。
そして終盤、再び映し出された招待状は、エセルとヘンリーの結婚式の招待状だ。この招待状は、テネンバウム家の面々が過去に区切りをつけ、新たな第一歩がはじまることを示している。
【考察】マーゴの過去や秘密|演劇作や男性遍歴に見る性分
養女として育ったマーゴは、家族の中でアイデンティティの不確かさを抱え続けてきたのでないか。彼女は喫煙や不倫の秘密を抱え、もし本当の自分を明かしたら失望されるという不安と孤独に怯えている。
マーゴの劇作や数々の秘密、そして奔放な男性遍歴は、単なる反抗や逸脱ではなく、自己の輪郭を確かめるための行為としても読み取れる。
壁に貼られたマーゴが手がけた過去作品は、過激な作品ばかり。マーゴは作品の中に本来の自己像を投影しているようだ。また、恋愛遍歴は他者との関係の中で存在証明を求める試みとも言える。
マーゴが秘密を抱え続ける裏には、愛されることへの渇望と拒絶への恐れとが潜んでいるのだ。
【解説】テネンバウム家の子になりたかったイーライ
イーライ・キャッシュは幼い頃からテネンバウム家に出入りし、家族の一員のように過ごしてきた。
大学時代には成績表を、作家として成功してからは雑誌記事をエセルへ送り続ける行為は、評価されたいという思い以上に、「家族の輪の中に認められたい」という承認欲求の表れともいえる。
親友リッチーの想いを知りながらマーゴと不倫関係に及ぶのも、家族に属せない疎外感の裏返しだろう。テネンバウム家は理想の居場所だが、同時に血縁ではないイーライがどんなに望んでも完全には入れない場所だ。一方で、同じく血のつながりを持たないマーゴが養女として家族に溶け込んでいる事実は、彼の劣等感を強く刺激する。マーゴとの関係には、彼女への欲望だけでなく、彼女の位置への嫉妬やリッチーへの屈折した感情も混じっているのだ。
作家として成功しながらも虚勢や奇行に走る姿は、どれほど努力しても手に入らない「テネンバウム家」への渇望が生み出した空虚さの表出である。
映画『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』主な登場人物・キャスト
テネンバウム家
ロイヤル・テネンバウム(ジーン・ハックマン)
– テネンバウム家父親。浮気で家を追い出され、ホテル暮らしをしている。長年働いていた法律界もチャスに訴えられてクビになった。
エセル・テネンバウム(アンジェリカ・ヒューストン)
– テネンバウム家母親で考古学者。ダメ父親のロイヤルに代わり、育児を一人で担った。求婚者が後を絶たないがすべて断っている。
チャス・テネンバウム(ベン・スティラー)
– テネンバウム家長男。小学生で投資やビジネスの才能を発揮した。未成年だったチャスの貯金をロイヤルが勝手に使っていたと父親を訴える。
マーゴ・テネンバウム(グィネス・パルトロー)
– テネンバウム家長女。養女として家族の一員になる。幼くして劇作家として活躍し天才児と呼ばれる。子どものころから喫煙を隠している。
リッチー・テネンバウム(ルーク・ウィルソン)
– テネンバウム家次男。天才テニスキッズで、10代でプロテニスプレーヤーに。マーゴに恋心を抱いている。
その他 関係者
イーライ・キャッシュ(オーウェン・ウィルソン)
– テネンバウム家の向かいに住むリッチーの親友。大学助教授からベストセラー作家になり人気爆発中。
ヘンリー・シャーマン(ダニー・グローヴァー)
– 会計士。エセルとは仕事仲間だったが求婚。前妻とは死別している。
ラレイ・シンクレア(ビル・マーレイ)
– マーゴの夫。神経学者で現在は青年ダドリーを被験者に研究をしている。
パゴダ(クマール・パナーラ)
– テネンバウム家の召使。ロイヤルとはカルカッタで出会う。ロイヤル曰く元殺し屋。
ダスティ(シーモア・カッセル)
– ロイヤルが滞在しているホテルの従業員。ロイヤル仮病の際には偽医師として偽装に加担した。
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映画『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』作品情報
作品情報
⚫︎ 製作国:アメリカ
⚫︎ 尺:110分
⚫︎ 監督:ウェス・アンダーソン
⚫︎ 脚本:ウェス・アンダーソン、オーウェン・ウィルソン
⚫︎ 撮影:ロバート・イェーマン
⚫︎ 美術:デビッド・ワスコ
⚫︎ 衣装:カレン・パッチ
⚫︎ 音楽:マーク・マザースボウ
⚫︎ 原題:The Royal Tenenbaums
- 『ダージリン急行』(2007年)
- 『ムーンライズ・キングダム』(2012年)
- 『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年)
- 『アストロイド・シティ』(2023年)
受賞・ノミネート
2002年 74回アカデミー賞
- ノミネート:脚本賞
2002年 第59回ゴールデングローブ賞
- 受賞:最優秀主演男優賞 ジーン・ハックマン
予告動画
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