Netflix映画『大洪水』は、壮大なディザスター映画だと思い込んで観始めると、後半で見事に裏切られる一本だ。
濁流に飲み込まれるマンション、息子を探して水中をさまよう母アンナ――極限のサバイバルが続く物語は、ある瞬間を境に一気にSFへと姿を変える。
母性とは何か、人間の感情はAIに学習させられるのか。災害の恐怖を借りて、人類の未来と倫理を静かに問いかけてくる意欲作だった。
この記事では『大洪水』のネタバレあり感想を中心に、ラスト結末の意味や作品に残る違和感、評価が分かれた理由について掘り下げていく。鑑賞後の考察整理にも、視聴前の参考にも役立ててもらえたら嬉しい。
本記事は感想にネタバレを含みます。まだ未視聴の方はご注意ください◎
Netflix映画『大洪水』の評価

評価コメント:災害×SFが斬新!だがどちらも中途半端で撃沈
総合評価 3.3 / 5 点
ディザスター映画だと思わせておいて、後半から一気にSFへと転じる構成が新しい、Netflix映画『大洪水』。
斬新な展開は評価が分かれ、災害描写やSF設定の説得力不足、父性の不在など多くの違和感も指摘されている。
一方で、「AIは人間の感情を学習できるのか」というテーマはチャットGTPを筆頭にAIがぐっと身近になった2025年という時代性と重なり、人類存続のためにAIに母性を与えるという試みは興味深い。
災害パニックによる心理ドラマや、困難を乗り越えて深まる家族愛を期待するとがっかりすることになる。だが、一度内容を把握したうえで二回目を見ると、発想のユニークさやプロットを楽しめる、噛みしめるほど味わいのある作品である。
津波の映像は大迫力なので、トラウマがある方は注意してください。
- クリストファー・ノーラン作品が好きな人
- 短時間でサクッと見れる哲学的な作品を探している人
- 内容より映像のインパクト重視の人
Netflix映画『大洪水』ネタバレなしあらすじ
ソウルの高層マンションで暮らす感情AIエンジン研究者アンナは、水遊びが大好きな息子ジャインのはしゃぎ声によって起こされる。数日前から大雨が続いており外は大洪水、あっという間に部屋の中まで浸水してしまった。
アンナ救出のためヘリが向かっていると国連から連絡を受けたアンナは、ジャインを連れてマンションの屋上を目指す。マンションの通路や階段は、避難する住民たちで溢れかえっていた。さらに追い討ちをかけるように津波が押し寄せ、アンナはジャインとはぐれてしまう。
なんとかジャインを見つけだしたアンナは、アンナが勤める研究施設のセキュリティーチームスタッフ、ソン・ヒジュと合流する。この洪水は、小惑星が南極に落下したことで起きた災害で、何年も前から予測されていた出来事だった。そして、人類の命運はアンナの研究にかかっっているとヒジュは語る。
やっとの思いで屋上に辿り着くも、アンナを救出に来た国連スタッフはヘリに乗れるのはアンナ一人だけだと言い、ジャインを拘束。ジャインも一緒にと懇願するが、ヒジュが容赦無く射殺されるのを見て無理を悟ったアンナは、ジャインに別れを告げヘリに乗り込む。そして、国中から集められた研究者たちとロケットで宇宙ステーションに旅立った。
ジャイン、またの名を「ニューロン77」から、感情データを記録したメモリパーツが摘出された。ジャインは、アンナがAIに人間の感情を与える「感情エンジン」を開発するために育てていたアンドロイドだった。人間と同質の身体を作る技術はすでに完成しており、あとは感情エンジンが完成すれば、人類滅亡を乗り越える「新人類」が誕生する。
子供の感情データは完成したが、感情エンジンのプログラムには母親の感情データも必要だ。アンナは「大洪水の仮想シュミレーションを繰り返し、母親の感情データを蓄積する」こと提案し、自ら実験体になる。すなわち、アンナが大洪水の中でジャインを見つけたとき、感情エンジンが完成する。
しかし直後、アンナはロケットの事故によって致命傷を負い、意識を失ってしまう。
アンナが目覚めると、そこは自宅マンション、再び大洪水の朝に戻っていた。アンナはジャインを見つけ出すため、それから何度も大洪水の朝を繰り返すことになる。
Netflix映画『大洪水』ネタバレあり感想
ディザスター映画かと思いきやまさかのSF展開
タイトルから、ディザスター映画以外の可能性を考えていなかったので、アンナがロケットで宇宙に飛び立ったとき、「これは一体…⁉︎」と悪くない意味で呆然とした。まさかディザスター映画の皮を被ったSF映画だったなんて!
そのギャップは残念ながら多くの鑑賞者には受け入れられなかったようで、作品の評価は低迷しているが、私はこのビックリ展開は斬新でナイスな試みだと思った。いよいよAIが私たち個人の暮らしに根付き始めた2025年に、まさにふさわしい作品ではないか。
ただ水害や親子愛をテーマに扱っていても、『インポッシブル』や『デイ・アフター・トゥモロー』のように、想像を絶するような絶望的な状況や、自分の命に変えても大切な人を守るんや!といた決死の愛の描写がなく、感動や共感はあまり得られなかった。
なので、これから見る方には「人類滅亡を防ぎたい研究者たちの実験を描くSF映画だよ〜」と伝えたいのだが、おそらくみなさんがSF映画に求める「よくわからないけどなんだかありそう」と思わせる説得力もイマイチ弱い。
物語がSF方向に舵を切る後半は、マンション内での出来事を繰り返すので背景がほとんど変わらないうえに、話がサクサク進みすぎて時間軸もわかりにくい。
プロットをわかったうえで二回目を見るとすんなり理解できるし、脚本のスムーズさに気づける、噛めば噛むほどな滋味のある作品であることは間違いない。
繁殖には「母性」が、社会形成には「父性」が必要
「母性」に焦点を当てた本作には、父親が不在だ。
アンナが開発中の感情エンジンは、母親と子のデータによって作られ、父親のデータは必要とされていない。ラストで地球に戻る宇宙船に乗っているのもアンナとジャインだけ。そこに違和感を覚えた人もいたのではないか。
人類がほぼ全滅した地球で、アンナとジャイン、たった2名の新人類は、わずかに残った旧人類と交わりながら地球の新たな住人として繁殖していくだろう。厳しい環境の中で種が存続するには、命に変えても我が子を守る「母性」が必要なのは疑いようもない。
では、その新しい世界に父親は必要ないのか?と寂しい気持ちになった方たちに朗報、繁殖の先に父親の役割がある。
それは「社会」を作ること。繁殖して集団ができたあと、ルールやフローを整えて形成した社会の中へ我が子を導く「父性」は、人類の進化発展に必要不可欠だ。
父性は男性だけに備わる生物学的な特徴ではないから、父親の感情プログラムはひとまず不要と判断したのかもしれない。
父親不在の新人類の世界で、女性に求められる役割が明らかに重すぎる点、新世界でも母親たちの悩みは尽きないのだろうと思う。
AIが人間の感情を獲得することへの期待と恐怖
AIが人間の感情を獲得するって、怖くはないですか?
AIが人間の代わりにできることが増えて、どんどん生身の人間の存在意義が失われていくことが私は怖い。
単純作業や機械的な処理の仕事をAIに取られても、感情コミュニケーションが不可欠な領域の仕事はまだ大丈夫だと思っている。今はまだ。だが、いずれカウンセラーや教師もAIがこなすようになっていったら、人間にできることって本当に生殖しかなくなってしまうのではないか。
感情AIを搭載したセックスロボの暴走を描く『コンパニオン』でも、生身の人間はAIに取って変わられることに不安を感じている。
しかしながら、AIが感情を学習すれば、さらに便利になるという期待があるのも否めない。すべての人にドラえもんのような、サポートから冒険まで一緒にしてくれる相棒がいる未来は、さぞ楽しくてイージーモードだろう。
マトリックスも、ドラえもんの世界も実現する可能性が視野に入ってきた。そう思うとちょっとワクワクするし、数十年前にこれらの傑作を作った原作者たちの想像力に感服してしまう。
Netflix映画『大洪水』考察・解説
【考察】ラスト結末の意味|アンナは死亡した?
21,499回目の仮想シュミレーションで、ついにアンナは屋上のクローゼットに隠れているジャインを見つけ出し、親子は抱き合って津波に飲まれ、シュミレーションは終了した。
アンナとジャインが乗る宇宙船が、洪水で海面積が増え大陸の形が変化した地球に向かっているラストシーンが描かれた。
このラストの意味を深掘りしていきたい。
まず、アンナとジャインが一緒にいることから、アンナを実験体にした母親の感情データ採取は終了し、感情エンジンが完成したことが推測できる。アンナとジャインの意識は実験から解放され、研究者と被験体としてではなく、母と子として一緒にいられるようになった。
アンナは生きていたのか?
ここで疑問になるのは、ラストのアンナは宇宙船の事故で重傷を負ったアンナと同一なのかということ。
作中ではアンナの生死は言及されず、ラストのアンナが生身の身体を持つオリジナルアンナなのか、AI感情エンジンと人工素材で再現したニューロンアンナなのかは明かされていない。
ここからは私個人の解釈にはなるが、アンナの身体は宇宙船事故で死亡しており、ラストのアンナはオリジナルアンナの記憶データを引き継ぎ、感情エンジンで再構築されたニューロンアンナだと思われる。頑丈なはずの宇宙服を突き破る形で大怪我を負い、医療設備も医療スタッフも乏しく、宇宙船も損壊している最悪な状況の中で、アンナが無事でいられたとは考えにくい。
ラストのジャインは身体こそ大洪水のときと同じ個体かもしれない(ジャインは誕生時からすでに人工身体である)が、中身はオリジナルジャインの記憶データを引き継ぎ、感情エンジンでニューロンジャインver.2として再編された存在だろう。
アンナとジャインが再構築された姿で地球に帰還するラストは、滅びの先にもなお、人間性は受け継がれ生命は繋がっていくという「再生への希望」を象徴している。
【解説】アンナの夫が死亡した水没事故
アンナは夫を車の水没事故で亡くしており、その深いトラウマが、洪水からなんとしてもジャインを守りたいという原動力にもなっていたことが読み取れる。
水没事故がどんな状況で起こったか詳細は描かれなかったが、ジャインは現在と同年齢(洪水時6歳)くらいに成長していたので、そう昔の話ではない。せいぜい数ヶ月〜1年前くらいの出来事だろう。
水没した車内の中で、夫はジャインを抱えて車を脱出しようとするも足が挟まって身動きが取れず、ジャインをアンナに託して水死したのだった。
夫に託されたジャインを、またしても水の事故で失うわけにはいかない。アンナにとってジャインを守ることは、亡き夫の思いに報いることでもあった。
何度津波に襲われてもジャインを探して水に潜り、時に自分から激流に飛び込むアンナは、トラウマを乗り越えて我が子のために突き進む、母の強さを体現していた。
【解説】低評価の理由?3つの違和感
Rotten TomatoesやIMDbの海外レビューサイトでも平均より低めの評価に落ち着いた本作。
災害描写もSF設定も詰めきれていないためか全体的に曖昧で、内容が理解しにくい構成だった感はやはり否めない。
おそらくほとんどの人が「ん?」と引っかかる要因になっただろう、3つの違和感がある。
① 洪水や水害の描写が不自然
作中の洪水の描写が、水の量や水害の規模に対して危険度が低めで不自然だと感じた人が、日本には特に多いと思う。
高層マンションの中層階まで飲み込む規模の津波が何度も押し寄せれば、当然水には土砂や建物の残骸を含んでいるはずだが、水は水中で目を開けられるほど澄んでいて、危険な漂流物もない。
津波に襲われても引き波に流されることなく、アンナは怪我ひとつなく、再び泳ぎ始める。
向こうから押し寄せる高波に「これじゃ生きていられるわけない…」と絶対絶命のピンチを感じたのに、波の出るプールで大波被ったくらいの感覚であっけなく進んでいくもんだから、なんだか拍子抜けしてしまった。
② ワンシチュエーションじゃ母親のデータ偏りすぎ
子供の感情データは、アンナと上司イムがそれぞれ子供を育てて、5年をかけてデータを集めていった。
それに対して、母親の感情データは被験者はアンナ一人、「大洪水の中で我が子を探す」ワンシチュエーションだけで作られる。あまりにも偏ったデータソースに、それで母親の感情全てを補えるのか?と不安になる。
それも、ジャインを見つけるまで何度も死亡→リトライを繰り返す中で、明るい感情が得られるのかも疑問だ。
子供の感情データを取るために子育てをする際、母親の感情の変化も同時に記録するほうがよほど役立つデータが取れたのではないか…。
③ 「父親」の感情データは不要なの?
母と子の感情をプログラムしたAI新人類は、ほとんどの生物が死滅したあとの地球で、人類の存続と再生を託されている。
感情エンジンに組み込むのは母親と子の感情に限定し、父親の感情データは含まなかったことに説明がなく疑問が残る。意図がわからないままでも作品を楽しむのに支障はないのだが、なんとなくすっきりしない。
災害ものとしてもSFとしても中途半端で、それぞれに求めるカタルシスやスペクタクルが弱かっただけでなく、作中のいたるところに些細な違和感があり、すっと飲み下せない作品だったというのが世界共通の感想だろう。
Netflix映画『大洪水』主な登場人物・キャスト
ク・アンナ(キム・ダミ)
– 感情学習AI研究者。高層マンションの3階で息子ジャインと暮らしている。
シン・ジャイン(クォン・ウンソン)
– アンナの息子。お絵描きと水遊びが大好きな6歳。アンナが感情エンジン開発のために育てているクローン。
ソン・ヒジュ(パク・ヘス)
– アンナが勤める研究機関ダーウィンセンターのセキュリティーオフィサー。母親に捨てられた過去を持ち、母性を信じていない。
イム・ヒョンモ(チョン・ヘジン)
– アンナの上司。アンナ同様、感情学習AI研究のために娘を育てていたが、国家の思惑を察知してか洪水の朝に娘を連れて逃亡した。
ジス(チョン・ユナ)
– マンション内のエレベーターに閉じ込められてしまった少女。
シン・ガウォン(イ・ハクジュ)
– アンナの夫。車の水没事故で死亡した。
Netflix映画『大洪水』作品情報
作品情報
⚫︎ 製作国:韓国
⚫︎ 尺:108分
⚫︎ 監督:キム・ビョンウ
⚫︎ 脚本:キム・ビョンウ、ハン・ジス
⚫︎ 音楽:イ・ジュノ
⚫︎ 原題:대홍수
⚫︎ 英題:The Great Flood
予告動画
▼ 『大洪水』を見た人に こちらもおすすめ!
2025年公開『コンパニオン』の、伏線回収の気持ちよさとラストに残るゾッとする余韻がたまらない…!恋人同士の穏やかな時間から始まる物語は、ささやかな違和感を積み重ねながら、観る者の認識を静かに狂わせていく。人間の欲望と支配、[…]
激しい癇癪、制御不能な衝動に、もがき苦しみながら全力で生きる9歳の少女。母親と暮らしたいあまりに暴れてしまい、状況を悪化させていくベニーの姿は、苛立たしく、痛々しく、そしてどうしようもなく愛おしい。映画『システム・クラッシャー』は、[…]
Netflix『ビリオネアズ・シェルター』は、終末世界を生き延びるディストピアSFかと思いきや、わずか1話で見事に裏切り、富裕層を標的にした壮大な詐欺劇に発展する衝撃作だ。『ペーパーハウス』の制作陣が手がけたこともあり、冒頭から張り[…]
KPOP文化、とりわけアイドルの世界的躍進は映画界でも止まらない!『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』を見てからというもの、作中のスーパーアイドル・Huntr/x(ハントリックス)に夢中です。ライブ前には鼻の穴を膨らま[…]




